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月、到着から別れ

足元の感触が、変わった。


軽い。

硬い。

けれど、地面としては、ちゃんとそこにある。


美佳は一歩、踏み出してみる。

沈まない。

跳ねもしない。


「……歩けるね」


誰に言うでもなく、そう言った。


空は近く、白い光が満ちている。

風はない。

音もない。


なのに、息は苦しくなかった。


不思議だと思うより先に、

「思ったより普通だな」と感じてしまうあたりが、

美佳だった。


隣では、かぐや姫が静かに立っている。


袖が揺れない。

影も落ちない。


それでいて、確かに“そこにいる”。


しばらく、二人とも何も言わなかった。


月は、迎えもしなければ、拒みもしなかった。

ただ、そこにあるだけだった。


やがて、かぐや姫が口を開く。


「――では」


声は低く、澄んでいた。


「わたくしは、ここまでです」


美佳は、ちらりとそちらを見る。


「え、もう?」


引き止めるでもなく、

驚きすぎるでもなく。


ただの確認だった。


かぐや姫は、小さく頷く。


「ここから先は、あなたの寄り道でしょう」


寄り道。


その言葉に、美佳は少しだけ笑った。


「そっか」


それだけだった。


感謝も、別れの言葉も、

大げさな何かもない。


かぐや姫は、美佳を見つめる。


想定外。

管理外。

それでも、排除する理由はない。


そういう目だった。


「月は――」


一瞬、言いかけて、やめる。


説明は不要だと判断したのだろう。


代わりに、こう言った。


「歓迎は、されません」


美佳は肩をすくめる。


「観光だしね」


かぐや姫の唇が、ほんのわずかに緩んだ。


それが、別れの合図だった。


次の瞬間。


かぐや姫の姿は、そこにはなかった。


消えた、というより、

「役目を終えて、いなくなった」

それだけだった。


月には、何の変化もない。


美佳は一人になった。


静かで、明るくて、

どこか生活感のない場所。


美佳はぐるりと見回す。


「……さて」


誰も聞いていないのを確認してから、

小さく言った。


「行ってみるか」


月は、行ける場所だった。


そして今。


ここにはもう、

案内役も、帰る人も、いない。


あるのは――

歩ける地面と、

白い光と、

美佳の好奇心だけだった。

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