おにしま☆ランド開発計画
太鼓の音が鳴り響く。
角を光らせた鬼たちが並び、
金棒を構え、吼える。
「桃太郎一行、迎え撃て!」
――完璧な昔話テンプレ。
そこへ。
美佳が、金棒を一瞥して言った。
「その金棒ダサい」
一瞬。
風が止まった。
太鼓が、
一拍遅れて、止まる。
金棒を持った鬼が、
自分の武器を見下ろす。
「……は?」
美佳は本気で不思議そうだった。
「色も形も野暮ったいし、
トゲ多すぎて危ないし、
何より“今っぽく”ない」
周囲の鬼が、
無意識に金棒を見る。
別の鬼が、そっと自分の金棒を背中に隠す。
もう一体が、角を触る。
――戦闘前の空気が、完全に壊れた。
「貴様……何を言っている……!」
鬼の一体が怒鳴る。
「我らの金棒は恐怖の象徴だ!」
美佳は首をかしげる。
「でもさ、
見た目で“来たい”って思う?」
沈黙。
「怖い=来ない、だよ?」
鬼たちの脳内に、
不本意な図が浮かぶ。
――誰も来ない島。
――灰色の岩。
――誰も写真を撮らない。
美佳、追撃。
「この島、
ロケーションも最悪じゃない?」
美佳は、金棒を持った鬼の前まで歩いていって、
しゃがみ込んだ。
じっと、金棒を見る。
「ねえ」
鬼が身構える。
「それさ、
もっと可愛い魔法のステッキみたいなのにしよ?」
――沈黙。
太鼓の音が、完全に止まる。
「……は?」
鬼は、心底理解できないという顔をした。
「ま、魔法……ステッキ……?」
「うん。
星とか付いてて、
先っちょ光って、
シャラシャラ音するやつ」
美佳は空中で、
それっぽい形を描いてみせる。
「振ったら
ドーン! じゃなくて
キラッ☆って感じ」
鬼たちの脳内に、
最悪の想像図が流れ込む。
・角付き鬼
・可愛いステッキ
・ポーズ付き
「な、なにを言っている……!」
別の鬼が怒鳴る。
「我らは恐怖を――」
「うん、だからそれがダメ」
即、切られた。
「怖いだけだと
子ども来ないし、
グッズ売れないし、
リピーターも増えない」
鬼幹部が、
“グッズ”のところで微妙に反応する。
美佳、畳みかける。
「金棒ってさ、
全部似てない?」
「見分けつかないし、
写真で並ぶと地味だし、
何より“あなた感”ない」
鬼が、
自分の金棒を見る。
隣の鬼の金棒を見る。
……確かに、だいたい同じだった。
「でも魔法ステッキならさ」
美佳は立ち上がって、両手を広げる。
「色ちがい
デザインちがい
推し鬼モデル」
「“あ、この鬼のやつ欲しい!”
ってなるでしょ?」
静かに。
確実に。
鬼たちの価値観が、音を立てて崩れていく。
若い鬼が、恐る恐る言った。
「……限定……とか……?」
「出す」
即答。
「季節限定とか……?」
「出す」
「……イベント連動……?」
「出す。
むしろやらない理由ある?」
鬼幹部、
完全に思考が“戦闘”から“企画会議”に移行。
誰かがぽつりと言う。
「……金棒、
重いしな……」
「……腰に来る……」
「……持ち歩くのだるい……」
――堕ちた。
美佳は満足そうに頷いた。
「でしょ」
そして、決定打。
「じゃあさ」
一拍置いて。
「ここ、
鬼ヶ島やめよ?」
鬼たちが息を呑む。
「今日から
おにしま☆ランドね」
――ここで、世界線が変わった。
「ねえ、その金棒ダサい」
(ざわつく鬼)
「角はいいのに、全体が重い」
(怒り始める)
「この島さ」
一拍。
「このままだと、過疎化するよ?」
鬼A
「……かそ、か?」
鬼B
「呪いか?」
鬼C
「よくない言葉だな……」
「人、来なくなるやつ」
これで終わり。
鬼が吠える。
「それでも恐怖だ!!」
角を鳴らし、金棒を地面に叩きつける。
太鼓が鳴る。
威圧。
様式美。
――昔話としては、満点。
美佳は一拍だけ置いて、首をかしげた。
「今どき流行らない」
それだけ。
空気が、止まる。
「……なに?」
鬼の長が聞き返す。
美佳は肩をすくめる。
「怖いだけのやつ。
来るの、最初だけ」
鬼たちがざわつく。
「最初は“うわー”って言うけどさ」
指で軽く円を描く。
「二回目、来ない」
「なぜだ!」
怒鳴る鬼。
美佳は即答。
「選択肢ないから」
「今はさ」
美佳は鬼ヶ島を見回す。
「怖いの、
“選べる人”しか来ないんだよ」
鬼「……?」
「自分で“行く”って決めた人」
一拍。
「で、今の鬼ヶ島、
それ用の設備ゼロ」
金棒を指差す。
「それ、重い」
角を見る。
「それ、当たると痛い」
建物を見る。
「暗い。狭い。出口ない」
そして結論。
「事故る」
鬼たち、言葉を失う。
恐怖の象徴が、
クレーム案件に変わった瞬間。
美佳、追い打ち。
「怖さはさ」
にこっと笑う。
「コントロールできないと、
ただのトラブル」
ここで若い鬼が、ぽつり。
「……最近、人、減ってる」
全員、そっちを見る。
美佳、畳みかけない。
責任を取らない顔で言う。
「まあ、選ぶのはそっちだけど」
一拍。
「このまま行くか」
もう一拍。
「それとも――
楽しい島にするか」
「……まあ、いいや」
軽い。
「決めるの、今じゃなくていいよ」
余裕。
「考えといて。
どうせ、また来るから」
鬼の長、やっと絞り出す。
「……なぜ、そこまで言える」
美佳、即答。
「だって」
一拍。
「私、
帰る場所、別にないし」
これで完全に詰み。
大人の鬼が吠える。
「我らは恐怖で成り立ってきた!」
その後の沈黙で、
若い鬼が――
「……でも」
小さく。
「……怖がられて、
誰か来たこと、ありますか?」
その言葉のあと、
誰も、金棒を振らなかった。




