次の発車待ち
目を開けると、
自分の部屋だった。
いつもの天井。
いつもの匂い。
「あー……帰ってきたか」
天界の光も、
神殿街のざわめきも、
もう、どこにもない。
床に転がるクッション。
机の上のスマホ。
生活感そのままの空間。
ただひとつ。
壁際に、弓が立てかけてある。
「……あ」
少しだけ、笑う。
「夢じゃないやつだ」
お腹が鳴った。
「……腹減った」
美佳は起き上がって、
棚からカップ麺を取り出す。
電気ポットに水を入れて、
お湯を沸かす。
慣れた手つき。
すっかり“現実”の動きだ。
お湯を注いで、
タイマー代わりにスマホを伏せた、そのとき。
「……ん?」
部屋の隅。
クローゼットでも、本棚でもない場所が、
ほんの一瞬、歪んだ。
空気が、引っ張られるみたいに。
次の瞬間。
――どさっ。
軽い音。
続けて、
どさどさっ、ばさばさっ。
床に、何かが落ちてくる。
「……」
美佳は、無言でそれを見下ろした。
お菓子。
袋に入った焼き菓子。
見たことのない包装のキャンディ。
神殿街で食べた、あの甘いやつ。
どう見ても、人間界の規格じゃない量。
そして、最後に。
小さな札が、ひらっと落ちる。
拾い上げる。
『餞別』
『道中の空腹に備えて』
文字は、やけに丁寧だった。
「……」
少しだけ間を置いて。
「……うん」
一言。
「やっぱり繋がってたか」
壁を見る。
何もない。
でも――
そこに“ある”のが、分かる。
次元コインロッカー。
完全に、自分の部屋と直結している。
「便利だなあ」
感心したように言って、
床に座り込む。
お菓子を一つ、開ける。
「いただきます」
誰に向けたわけでもない言葉。
カップ麺の湯気と、
異世界のお菓子の甘い匂いが、
部屋の中で、ゆっくり混ざる。
弓は、壁際にある。
ロッカーは、静かだ。
でも――
閉じた感じは、しなかった。
美佳は、お菓子を齧りながら思う。
「……ま、いっか」
なんとかなる。
だいたい、
いつもそうだった。
世界は、何事もなかったように回り続ける。
でも。
美佳だけは、知っている。
あの場所は、
ちゃんと、存在していたことを。
「……ま、いっか」
カップ麺の蓋を開けて、
箸を取る。
列車は、もう動いている。
次にどこを通過するかなんて、
誰にも分からない。
――
ダァシエリイェス!!
※この物語に出てくる世界、
著者はまだ行ったことがありません。
ただ、
「お腹が空く」とか
「眠くなる」とか
「なんとかなる気がする」とか、
そういう感覚だけは、
たぶんどの世界でも同じだと思っています。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。




