天界、到着しました
白かった。
ただ白い、ではない。
光そのものが、空気みたいに満ちていて、
影の概念が、少しだけ薄い場所だった。
「……まぶし」
美佳が、目を細める。
その瞬間。
羽音がした。
ばさり、ではなく、
ふわ、と。
目の前に降り立ったのは――天使だった。
白い翼。
整いすぎた顔立ち。
性別は、よく分からない。
いや、分ける必要がない、という感じ。
「ようこそ、天界へ」
澄んだ声。
丁寧で、よく通る。
「外界より来訪された方。
お名前を――」
「美佳」
即答。
天使が一瞬、言葉を止める。
「……確認します」
空中に、淡い光の板が浮かぶ。
文字が走る。
情報が、更新される。
『来訪理由:管理局判断』
『危険度:未分類』
『対応指針:未確定』
天使は、静かに瞬いた。
「……想定外ですね」
「よく言われる」
美佳は、肩をすくめた。
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別の天使が、近づいてくる。
「荷物は、こちらでお預かりを」
「えーっと」
美佳は後ろを振り返る。
そこには。
・想い出の弓矢
・鍛冶屋渾身のカラコロ
・次元コインロッカー(仮設)
・女子会餞別の山
「……全部?」
天使たちが、固まる。
「……想定外ですね」
二度目。
「大丈夫」
美佳は言う。
「壊れないから」
根拠はない。
でも、断言だった。
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「こちらへ」
案内されて歩き出す。
道は、床というより、意識の流れみたいだった。
歩くと、ちゃんと進む。
止まると、景色も止まる。
「変なとこ」
「そうですか?」
「うん」
美佳は、楽しそうだ。
「歩いてる気が、半分しかしない」
天使は、答えに困って黙った。
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やがて、広い場所に出る。
柱。
光。
空。
そこに――女神たちがいた。
アルテミスが、真っ先に視線を向ける。
「……あなた?」
弓に、目が止まる。
「それ」
一歩近づく。
「外界の弓矢?」
「うん」
美佳は、差し出した。
「使う?」
アルテミスが、ほんの一瞬だけ固まる。
「……いいの?」
「思い出だから、返してね」
その距離感に、女神たちがざわつく。
アフロディテが、微笑む。
「面白い子ね」
「でしょ?」
美佳は、胸を張る。
「ところでさ」
少しだけ、首を傾げる。
「ここ、お茶できる?」
沈黙。
天使たちが、管理局の方を見る。
女神たちが、顔を見合わせる。
アルテミスが、ふっと笑った。
「……ええ」
「できるわ」
「天界でも」
美佳は、満足そうに頷いた。
「よかった」
「じゃ、ゆっくりしよ」
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その瞬間。
管理局の端末――カシャンが、微かに震える。
『観測継続』
『干渉レベル:低』
『感情値:……』
数値が、一瞬だけ乱れた。
誰も気づかない。
ただ。
天界は、この時点で理解した。
――この来訪者は、
救済でも、侵略でもない。
ただ。
居るだけで、世界の前提を揺らす存在だと。




