いつものお茶会、少しだけ違う
お茶は、いつもと同じだった。
湯気の立ち方も、
カップの縁の欠け具合も、
机に置かれた焼き菓子の配置も。
「……あ」
受付嬢が、ふと声を出す。
「今日は、こっちの茶葉にしてみたんです」
「へー」
美佳は、素直に頷いた。
一口飲んで、少し考える。
「うん。これも美味しい」
それだけだった。
弓勇者は、いつもの席に腰を下ろしながら、首を傾げる。
「……なんか静かじゃない?」
「え?」
受付嬢が瞬く。
「そう?」
「いや、音とかじゃなくて……」
弓勇者は言葉を探して、やめた。
プリーストは、焼き菓子を小さく割りながら、穏やかに笑う。
「落ち着いている、ということでしょう」
「そうそう」
受付嬢は、ほっとしたように頷いた。
「最近、慌ただしかったですからね」
誰も否定しない。
美佳だけが、カップを両手で包んだまま、何も言わなかった。
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話題は、いつも通り流れていく。
新しい依頼の話。
最近増えた巡回。
神殿街の噂。
弓勇者が言う。
「また上から視察が来るらしいですよ」
「……また?」
受付嬢が、少しだけ眉を寄せる。
「忙しくなりそうですね」
「慣れてるけど」
プリーストが、淡々と応じる。
美佳は、そのやり取りを聞きながら、スプーンで菓子を割った。
食べる。
噛む。
飲み込む。
――味は、同じ。
「ね」
美佳が、ふいに口を開いた。
三人の視線が、自然に集まる。
「ここってさ」
一拍。
「長居、してもいい場所?」
受付嬢は、一瞬だけ言葉に詰まった。
「……もちろんです」
すぐに、笑顔を作る。
「お客様ですし」
弓勇者も頷く。
「問題ないでしょ」
プリーストも、柔らかく。
「歓迎されていると思いますよ」
美佳は、少しだけ微笑った。
「そっか」
それ以上は、何も言わない。
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カップが空になる。
誰も、次のお茶を注ごうとしなかった。
「……あ」
受付嬢が、ようやく気づく。
「おかわり、入れますね」
立ち上がりかけて、止まる。
なぜか、急ぐ必要がない気がした。
弓勇者は、椅子に深く座り直す。
「今日は、このままでもいいか」
「そうですね」
プリーストが頷く。
沈黙が落ちる。
気まずさは、ない。
ただ――
少しだけ、隙間があった。
美佳は、その隙間を見ていた。
埋めようとはしない。
手を伸ばしもしない。
ただ、そこにあると知っているだけ。
「ごちそうさま」
美佳が言う。
いつもより、少し早い。
受付嬢が慌てて言った。
「もう一つ、ケーキ――」
「今日は、いいや」
やさしく、断る。
立ち上がるでもなく、
席を移るでもなく。
ただ、カップを戻す。
「この時間、好きだな」
ぽつりと。
誰に向けた言葉でもなかった。
弓勇者は、なぜか胸の奥がざわついた。
プリーストは、祈るときと同じ顔になった。
受付嬢は、笑顔のまま、瞬きを一つ多くした。
誰も、理由を言葉にできない。
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その頃。
どこか遠くで、記録が更新されていた。
数値ではない。
警告でもない。
ただ一行。
「滞在安定度:臨界に接近」
誰にも聞こえない音で、処理が進む。
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お茶会は、終わらなかった。
だが。
少しだけ、
「次」が見えてした。
それだけの話だった。




