報告書は、燃えない
報告書は、三度目で差し戻された。
理由は、単純だった。
「理解不能」
それだけが、赤字で記されている。
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管理区画。
白でも黒でもない、どちらとも言えない空間。
机も椅子もない。 あるのは、情報だけだった。
「確認します」
淡々とした声が言う。
「該当人物は、討伐対象を――」
一拍。
「捕獲しています」
別の声が続ける。
「捕獲後、調理しています」
沈黙。
「……討伐では?」
「いいえ」
「儀式ですか?」
「いいえ」
「供物?」
「いいえ」
「……暴食?」
「いいえ」
しばらくして、低い声が結論を出す。
「食事です」
空間が、ざわついた。
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記録が展開される。
・詠唱中の魔法を待たない
・素手で捕まえる
・焼く
・分ける
・「食べる?」と声をかける
「敵意は?」
「ありません」
「支配行動は?」
「ありません」
「扇動?」
「ありません」
「……では、なぜ周囲が巻き込まれている?」
返答は、即座だった。
「断らないからです」
沈黙。
誰も、それ以上を言えなかった。
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別の記録。
・プリースト:同行継続中
・外泊申請:未提出
・本人談
「楽しいので」
「神殿は?」
「混乱しています」
「拘束は?」
「拒否されました」
「抵抗?」
「いいえ」
「理由は?」
「『今ご飯の途中です』」
長い沈黙。
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さらに、追記。
・ウィザード
・初遭遇時、詠唱中に対象を失う
・詠唱完了後、用途変更
・攻撃魔法→調理工程へ転用
「……魔法の用途が」
「書き換えられています」
「誰が?」
「現場で」
「誰が?」
「該当人物です」
沈黙。
誰かが、低く呟いた。
「ルールを壊していないのが、問題だ」
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別の視点が、静かに言う。
「彼女は、選んでいません」
「勇者でもない」
「救世でもない」
「敵対もしない」
「ただ――」
一拍。
「空腹に忠実なだけです」
報告書が、閉じられる。
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「対策は?」
誰かが聞く。
答えは、なかった。
拘束できない。 排除できない。 誘導もできない。
なぜなら。
「こちらの想定を、毎回一段下から通過している」
誰かが、苦笑した。
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現場。
焚き火のそば。
美佳は、串を回している。
「もうちょいかな」
隣で、ウィザードが言う。
「……その焼き加減、完璧ですね」
「でしょ」
美佳は笑う。
「食べる?」
プリーストが頷く。
「はい」
弓勇者も頷く。
「はい」
誰も、疑問を持たなかった。
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その瞬間。
管理側の観測ログに、新しい一文が追加される。
※注意
本人に悪意はない
本人に自覚もない
だが、世界の運用が追いついていない
報告書は、燃えなかった。
ただ、積み上がるだけだった。




