詠唱する前に、捕まえられた
焚き火の向こうで、
声がした。
「――そこ、動かないでください」
低くも高くもない、
けれど妙に通る声。
全員が、そちらを見る。
岩陰から現れたのは、
ローブ姿の人物だった。
丈の長い外套。
杖。
フードの奥で、淡く光る目。
美佳は、第一印象を口にした。
「……魔法使いだ」
即断。
弓勇者が小声で言う。
「ウィザードですね」
プリーストは、少しだけ姿勢を正した。
「詠唱職の方です」
ウィザードは、焚き火と、
その前で普通に食事の準備をしている一行を見て、
わずかに動きを止めた。
視線が、肉に行く。
串に刺さっている。
焼かれかけている。
「……」
一瞬の沈黙。
「……モンスター、ですよね」
確認するような口調。
「うん」
美佳が即答した。
「さっき捕まえた」
ウィザードは、言葉を探す。
「……討伐、では?」
「ううん」
「……封印?」
「してない」
「……保護?」
「食べる」
きっぱり。
ウィザードは、完全に言葉を失った。
その間にも、
モンスターがじゅう、と焼ける。
「……危険では?」
慎重に聞く。
美佳は首を傾げる。
「火通せば平気じゃない?」
ウィザードは、
“その発想はなかった”という顔をした。
弓勇者が補足する。
「この人、そういう人です」
プリーストも頷く。
「悪意はありません」
「……悪意は、ない?」
ウィザードは、もう一度焚き火を見る。
戦闘陣形もない。
結界もない。
警戒の魔法陣も張られていない。
あるのは、
焚き火と、食事と、落ち着いた空気。
ウィザードは、ゆっくりと杖を下ろした。
「……」
一拍置いて。
「……詠唱、解除します」
そう言って、フードを外す。
「ウィザードです。
調査……というか、確認に来ました」
美佳は、にこっと笑った。
「ご飯、食べる?」
それが、
ウィザードの最初に投げかけられた言葉だった。




