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管理者は、干渉しない

焚き火の音は、相変わらずぱちぱちと鳴っていた。


火の色は一定で、 煙も安定していて、 誰が見ても「普通の野営」だった。


――ひとつだけ、違う点を除けば。


ジジ……

ジ……ジジ……


焚き火の少し向こう。 空気が、歪んでいる。


人の形をしているようで、 していない。


鎧にも見える。 骨組みにも見える。 だが、どこにも「顔」がない。


金属音とも、演算音ともつかない微かなノイズが、 一定間隔で響いていた。


調査団の一人が、息を呑む。


「……な、なんだ、あれは」


誰も答えられなかった。


剣に手をかける者。 祈りの言葉を探す者。 ただ固まる者。


その全員を素通りして。


「……あ」


美佳が、声を上げた。


手には、焼けた魚。 もう半分は、食べ終わっている。


「来たんだ」


それだけだった。


管理者――

それは、一歩前に出た。


歩いた、というより、 位置情報が更新された、という動き。


カシャン

カシャ……


音が止まる。


そして。


初めて、 “外部への出力”が行われた。


「――観測対象、確認」


声は、男でも女でもなかった。 感情も、抑揚もない。


ただ、情報だけが落ちてくる。


「異常行動ログ、累積値超過」 「自律判断不可」 「遠隔監視、無効」


一拍。


「――現地観測に移行する」


調査団が、ざわつく。


「しゃ、しゃべった……」


「魔王か……?」


「神……?」


美佳は、首をかしげた。


「管理の人?」


管理者は、否定も肯定もしない。


ただ一言。


「分類:管理端末」


それを聞いても、 美佳は特に驚かなかった。


「あー」


魚をもう一口。


「やっぱ来たかー」


全員が、そっちを見る。


「……知ってたのか?」


誰かが、恐る恐る聞く。


美佳は焚き火を見つめたまま答えた。


「うん。

 ずっと見られてる感じ、してたし」


管理者の内部で、 処理ログが一つ増える。


※観測対象、監視を認識

※警戒反応なし

※脅威認定なし


「ねえ」


美佳が、顔を上げる。


「ご飯、食べる?」


沈黙。


調査団の誰かが、 「……は?」と漏らす。


管理者は、数秒―― いや、数百処理分の沈黙の後に答えた。


「摂取機能、未搭載」


「そっか」


美佳はあっさり頷く。


「じゃあ、見てるだけ?」


「肯定」


「ふーん」


それ以上、興味はなさそうだった。


再び魚を食べる。


管理者は、動かない。 だが、確実に“見て”いた。


・焚き火

・食事

・談笑

・警戒心の欠如


すべてが、 「想定外」で埋め尽くされていく。


調査団の一人が、耐えきれずに叫ぶ。


「貴様は!

 この世界に何をしに来た!」


管理者は、即答する。


「干渉しない」


一拍。


「修正しない」 「排除しない」 「誘導しない」


さらに一拍。


「――記録する」


美佳は、最後の一口を食べ終えて、 手を合わせた。


「ごちそうさま」


その仕草に、 管理者は一瞬だけ、処理を止めた。


※行動解析不能

※儀式に非該当

※文化的動作?


美佳は立ち上がり、 管理者の方を見た。


「ねえ」


「?」


「それ、ずっとついてくるの?」


管理者は、少し間を置いてから答えた。


「観測が終了するまで」


「ふーん」


美佳は、肩をすくめる。


「じゃあさ」


にこっと笑う。


「邪魔しなければ、いいよ」


その瞬間。


管理者のログに、 今まで存在しなかった項目が生成された。


※観測対象より

行動許可を受領


管理者は、理解できなかった。


だが。


理解できないまま、 “同行”フラグが立った。


焚き火は、静かに燃え続ける。


世界は、 今日も回っている。


そして。


管理者は初めて知った。


――この旅は、

止められるものではない、と。

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