お供が増えるのは仕様です
「ケモミミがいるってことはさ」
桃の縁に腰掛けたまま、美佳はさらっと言った。
「耳が尖ったエルフとか、定番でしょ。
どこにいるか知らない?」
ケモミミは一瞬、ぽかんとした。
「……え、エルフ?」
「うん。
森にいて、弓持ってて、やたら美形で、プライド高いやつ」
情報が雑なのに的確だった。
「そ、そういうのは……森の奥に……」
「よし、じゃあ寄ろう」
「え?」
ケモミミが聞き返す前に、美佳は桃の縁を蹴った。
「寄り道。
どうせ鬼ヶ島まで一直線じゃないでしょ」
桃は川の流れを無視して、
都合よく森の方向へと流れ始めた。
どんぶらこ。
……というより、進路変更。
---
森に入ると、空気が変わった。
やたら澄んでいて、
やたら静かで、
やたら「選ばれし者以外立入禁止」感が強い。
「ここ、絶対エルフの森だ」
根拠はない。
だが、美佳は確信していた。
案の定。
木の上から、冷たい声が降ってくる。
「……何者だ」
「ん?」
見上げると、
尖った耳、長い金髪、整いすぎた顔。
弓を構えた高貴そうなエルフが、完全に警戒モードだった。
「人間が、なぜここに――」
「わ、やっぱりいた」
美佳の第一声は感動だった。
「ね、ケモミミ。定番」
「いや今それ言う!?」
エルフは眉をひそめる。
「ここは選ばれし者のみが――」
「ねえ」
美佳は話を遮った。
「その服、素材はいいけどデザイン地味すぎない?」
一瞬、森が静止した。
「……は?」
「顔めちゃくちゃいいのに、
色味もシルエットも映えないよ。もったいない」
エルフの誇りが、音を立てて軋む。
「な、何を――」
「下にフリル足して、ケープ少し短くしてさ。
耳尖ってるんだから、隠さず出したほうがウケるって」
完全に評価対象になっていた。
「……貴様……!」
怒りで弓を引き絞るエルフ。
だが、美佳は全く気にしない。
「鬼ヶ島行くんだけど、来る?」
「……は?」
「人手足りなくてさ。
あと、美形いると全体のビジュアル締まるし」
沈黙。
森の奥で、風がざわりと揺れた。
エルフは、
怒り、困惑、誇り、興味――
全部を天秤にかけた末、
「……我らは、誇り高き民だ」
「うんうん」
「そのような軽い誘いに――」
「団子あるよ」
一拍。
「……」
二拍。
「……少しだけなら」
即落ちだった。
「よし、決まり!」
美佳は満足そうに頷く。
「じゃあ乗って。
あ、弓は持ってきて。飾りになるから」
こうして、
鬼討伐の旅は、
いつの間にか“ビジュアル重視パーティ”になった。
どんぶらこ。
どんぶらこ。
――誰も、
「犬・猿・雉」が出てこないことを
もう気にしていなかった。
美佳は桃の縁で足をぶらぶらさせながら、満足そうに頷いた。
「おー、ロープレ感
漂ってるー」
エルフが無言で弓を握り直す。
その横で、ケモミミが小声で言った。
「……それ、褒めてます?」
「もちろん」
即答だった。
「エルフ来たら、次はゴブリンかオークでしょ。
数が増えてきて、画面がにぎやかになるターン」
完全にゲーム進行表で考えている。
「……画面?」
「ほら、序盤は少人数、
中盤で一気に増えて、
終盤で“あれ?何人いる?”ってなるやつ」
誰も否定できなかった。
なぜなら、もうそうなり始めているからだ。
---
森を抜けると、今度は空気が露骨に変わった。
ぬかるんだ地面。
雑多な足跡。
妙に生活感のある匂い。
「はい来た」
美佳が指を鳴らす。
「この感じ、絶対ゴブリン」
「……なぜ分かる」
エルフが訝しげに聞く。
「散らかってるけど、
“住んでる感”はあるでしょ。
あと、絶対文句言いながら働いてる」
次の瞬間。
「おい!誰だ勝手に入ってきたのは!」
「また仕事増えたのかよー!」
「今日は休みだって聞いてたんだけど!?」
わらわらと、
緑色の小柄な影が現れた。
「ほら」
美佳はドヤ顔だった。
ゴブリンたちは武器を構え――
構えかけて、止まる。
「……あれ?」
「人間……だけど……」
「後ろの耳尖ってるやつ、
なんか偉そうじゃね?」
エルフが無言で睨む。
ゴブリンたちは一歩下がった。
「ねえねえ」
美佳が、きび団子をひとつ掲げる。
「鬼ヶ島行くんだけど、来る?」
「……は?」
「テーマパーク化する予定。
人手とノリが欲しい」
「……」
ゴブリンたちが顔を見合わせる。
「給料は?」
「楽しい」
「休みは?」
「自由」
「上司は?」
「私」
沈黙。
「……最悪じゃね?」
「でも楽しそうだぞ」
「どうせ今の仕事も最悪だし」
三秒後。
「……参加します」
即決だった。
---
「よし!」
美佳は満足そうに手を叩く。
「じゃあ次」
エルフが嫌な予感を覚える。
「……まだ増やす気か」
「当たり前じゃん」
美佳は前方の丘を指さした。
地響き。
重い足音。
「オークでしょ、あれ」
丘の向こうから現れたのは、
筋骨隆々、巨大な影。
オークたちはこちらを見下ろし、鼻を鳴らす。
「……小さいのが騒がしいな」
「喧嘩売ってんの?」
「ちがうちがう」
美佳は即座に手を振った。
「スカウト」
「……は?」
「力枠、欲しくてさ。
あと、並んだ時の迫力」
オークたちは困惑した。
「鬼ヶ島行く?」
「……鬼を倒すのか?」
「ううん」
「……?」
「リゾートにする」
沈黙。
オークの長が、低く笑った。
「……面白い女だ」
「でしょ」
こうして。
犬も猿も雉も関係なく、
昔話×RPG×美佳基準で、
お供は、いつの間にか増えていた。
誰が最初だったのかは、
もう気にする人もいない。
桃は流れ、
話は進み、
気づけば編成だけが長くなっている。
ダァシエリイェス!!
次は、
どの種族が巻き込まれるかは、
誰にも分からない。




