未定
神殿からの使者が来たのは、朝だった。
正式な装束。
正式な封印。
正式な困惑。
「神官が、戻っておりません」
ギルド長は一瞬、言葉を失った。
「……いつから?」
「三日ほど前から」
「外泊届は?」
「ありません」
その場にいた全員が、同時に思った。
――やっぱりか。
受付カウンターの奥で、受付嬢が静かにペンを置く。
遠い目。
「……ほら、言わんこっちゃない」
誰にも聞こえない声だった。
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調査団は即座に編成された。
・神官失踪
・魔物による拉致の可能性
・異端者との接触記録あり
記録の最後に、赤線が引かれている。
《備考:例の人物と同行中》
受付嬢は、その文字を見て、ため息をひとつ。
「同行、じゃないんですけどね……」
誰も拾わなかった。
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焚き火のそば。
プリーストは、袖をまくっていた。
「今日は煮込みですね」
鍋の中で、何かがことこと言っている。
美佳は横で座り、木の枝で火を調整している。
「これ、いい匂いする」
「でしょう?」
プリーストは嬉しそうだ。
「回復効果も高いんですよ。温かい方が」
弓勇者は、もう何も言わなかった。
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そこへ。
「神官様! ご無事ですか!」
鎧の音。
緊張した空気。
剣が半分、抜かれる。
プリーストは振り返った。
「はい?」
鍋をかき混ぜたまま。
「え、皆さま……?」
調査団、固まる。
「……拘束、されては?」
「されてませんが?」
即答。
「洗脳は?」
「されてませんね」
「……自発的、ですか?」
「はい」
プリーストは首をかしげる。
「夕食当番ですので」
沈黙。
火が、ぱち、と鳴った。
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美佳が顔を上げる。
「食べる?」
調査団、完全停止。
「いえ、我々は――」
「じゃああとで」
軽い。
プリーストがにこっと笑う。
「皆さまも、よろしければ」
「神聖加護、入ってますよ」
剣を握っていた手が、ゆっくり下がる。
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その夜。
報告書には、こう書かれた。
・神官、無事確認
・拘束、洗脳の痕跡なし
・本人、帰還意思……未確認
最後の行だけ、二重線が引かれている。
《帰還予定:未定》
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ギルド。
受付嬢は、その報告書を見て、静かに頷いた。
「ですよね」
そして、メモを一行、足す。
※神官職の外泊規定、再検討要
ペンを置き、顔を上げる。
「……次は、誰が行くんだろ」
遠い目だった。
未定だった。
すべてが。




