回復屋です
受付嬢は、その日の業務を終えたあとも、少し考え込んでいた。
机の上には、未処理の書類。 依頼一覧。 注意人物メモ。
その端に、走り書きのような一文。
※回復役と相性が悪い可能性あり
「……悪い、っていうか」
受付嬢は、小さく息を吐く。
「逆かも」
思い出すのは、あの様子だ。
痛がらない。 怯えない。 無理を「無理」だと思っていない。
しかも―― それを止めない。
「……止めるより」
受付嬢は、ペンを置いた。
「支えた方が、被害が少ない」
結論が、あまりにも事務的で。 でも、現場の人間らしかった。
---
翌日。
美佳は、ギルドのカウンター前にいた。
目的は単純。
「ねえ」
受付嬢を見る。
「昨日言ってた甘いお茶、どこで飲める?」
受付嬢は、一瞬だけ視線を逸らし。
そして、にこやかに答えた。
「その前に」
「ちょっと、紹介したい人がいます」
「紹介?」
美佳は首をかしげる。
「友達?」
「……近いです」
誤魔化した。
---
神殿は、町の奥にあった。
白い石造り。 静かな空気。 やたらと清潔。
美佳は、入った瞬間に言った。
「ここ、眠くなるね」
受付嬢は、内心で頷いた。
(この人、もう半分回復されてる……)
---
奥から、声がする。
「次の方どうぞー」
やけに明るい。
姿を現したのは、 白い装束に身を包んだプリーストだった。
穏やかな笑顔。 柔らかい声。
「こんにちは」
美佳を見るなり、少し目を輝かせる。
「あ、元気そうですね」
即断。
受付嬢の背筋が、ひやりとした。
(判断が早い)
---
「こちら」
受付嬢は、形式的に紹介する。
「最近、少し……特殊な行動をされている方です」
「へえ」
プリーストは興味津々だった。
「怪我は?」
「してない」
「倒れたことは?」
「ある」
「何回くらい?」
「分かんない」
プリーストの笑顔が、深くなる。
「大丈夫そうですね」
受付嬢は、その言葉の意味を噛み締めた。
(……終わった)
美佳は、気にせず言う。
「この人、なに屋さん?」
プリーストは、胸に手を当てた。
「回復屋です」
「ふーん」
一拍。
「便利そう」
プリーストは、嬉しそうに頷いた。
「よく言われます」
---
その瞬間。
受付嬢は確信した。
止める人間を連れてきたつもりが、
一番相性のいい人材を連れてきてしまった。
しかも。
本人たちは、まだ何も始めていない。




