女子会は、世界を回す
最初は、ただのお茶だった。
甘い焼き菓子。 湯気の立つカップ。
窓際の席。
「これ、ほんとに美味しいね」
美佳は素直に言う。
「でしょ?」
受付嬢は、ちょっと誇らしげだった。
弓勇者は、肘をついて頷く。
「ここ、依頼帰りによく来るんですよ」
「へー」
美佳は感心する。
「依頼帰りって、疲れない?」
「疲れます」
即答。
「だから甘いもの必須です」
三人で笑う。
完全に、女子会だった。
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話題は、自然に移っていく。
弓勇者が言う。
「依頼って、基本は三段階なんです」
「え、そうなの?」
「危険度と報酬と、あと……責任」
美佳はクッキーを齧りながら聞く。
「責任?」
「失敗した時に、誰が怒られるか」
「……あー」
なんとなく分かった顔をする。
受付嬢が続ける。
「だから、掲示板に貼る前に精査します」
「勝手に受けられないの?」
「受けられません」
「えー、面倒」
三人目線で一致する。
「それでね」
受付嬢は、カップを持ったまま言う。
「ギルドは、依頼の窓口であって、裁量はほとんどないんです」
「へー」
美佳は、興味深そうに身を乗り出す。
「じゃあ、決めてるのは誰?」
「……上」
受付嬢は、少しだけ言葉を濁した。
「もっと上」
弓勇者が補足する。
「神殿とか、王都とか、よく分からないところです」
「ふーん」
美佳は、特に感想もなく相槌を打つ。
「どこも似てるね」
二人が、同時に瞬いた。
「……え?」
「え?」
「だってさ」
美佳は笑う。
「上の人ほど、現場知らないの」
受付嬢が、息を呑んだ。
弓勇者は、口を押さえる。
「それ、言っちゃう?」
「言わない?」
「……言わない」
三人で顔を見合わせて、吹き出す。
――そのあと。
受付嬢だけが、少し遅れてカップに口をつけた。
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気が付けば。
弓勇者は、討伐のコツを話していた。
「無理しないこと」 「一人で抱えないこと」 「逃げる判断は早めに」
「うんうん」
美佳は真面目に聞いている。
受付嬢は、制度の話をしていた。
「依頼には期限があって」 「報酬は信用度に比例して」 「記録は全部残ります」
「へー」
美佳は、興味津々だ。
ただし。
メモは取らない。 覚える気もない。
「面白いね」
それだけ。
二人は、途中で気づいた。
――この人、理解してる。
しかも。
「使う時だけ、使う」理解をしている。
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「でもさ」
美佳が言う。
「世界を救うとかは、無理だなー」
「ですよね」
弓勇者が即答する。
「興味ないもん」
「ですよね」
受付嬢も頷く。
「でも」
美佳は、カップを持ち上げる。
「女の子同士で話すのは、どの世界でも楽しい」
二人は、少しだけ黙った。
そして。
同時に、笑った。
「それは……そうですね」
「間違いないです」
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その頃。
管理側では。
「知識レベルが上がっています」
「意図的ですか?」
「いいえ」
「……最悪だ」
誰かが呟く。
「学習してる自覚がない」 「善悪で動かない」 「でも、世界は理解している」
「しかも」
「女子会経由です」
沈黙。
誰も、対策を思いつかなかった。
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美佳は、最後のクッキーを食べ終える。
「ごちそうさま」
「また来ましょう」
受付嬢が言う。
「次は新作ケーキが」
「行く行く」
即答。
弓勇者が笑う。
「……冒険者やってる場合じゃないな」
「ねー」
三人で笑う。
誰も知らない。
このお茶会が、 この世界の「理解の基盤」になりつつあることを。
そして――
誰も、止められないことを。




