個人的なおすすめですが
ギルド。
昼下がり。
受付嬢は、いつも通りの業務をこなしていた。
依頼書。 報告書。 討伐数。 危険度。
全部、問題ない。
……はずだった。
「こんにちはー」
声。
聞き覚えがありすぎる。
受付嬢は、反射的に顔を上げた。
「……」
いた。
例の人。
※登録なし
※依頼なし
※落とし物常習
※空腹時は要注意
あのメモの主。
美佳だった。
「今日はね」
にこにこ。
「ちょっと聞きたいことがあって」
受付嬢は、 一瞬だけ天井を見た。
(業務用。業務用の声で)
「……はい、何でしょう」
「この町でさ」
美佳は身を乗り出す。
「女の子が好きそうなお店、知らない?」
受付嬢の思考が、止まった。
「……どの、ジャンルの?」
「うーん」
美佳は指を折る。
「甘いもの」 「かわいい服」 「なんかテンション上がるやつ」
完全に私的案件。
受付嬢は一瞬、 「ギルドは案内所ではありません」 と言いかけて――
やめた。
なぜか。
分からない。
ただ。
この人に 「ないです」 と言うのが、 すごく間違っている気がした。
「……あります」
気づいたら言っていた。
「ありますよ」
美佳の目が輝く。
「ほんと!?」
受付嬢は、 自分でも驚くほど、 すらすら話し始めた。
・裏通りの焼き菓子屋
・冒険者割引はないけど味が本物
・服は南区の仕立屋が可愛い
・実用性?知らない
・気分が上がる
「あ」
途中で気づく。
(……これ、私の趣味だ)
受付嬢は、咳払いをした。
「……あくまで、個人的なおすすめですが」
「最高じゃん」
美佳は即答した。
「一緒に行こ?」
「……え?」
「今、空いてる?」
受付嬢は、 反射的に後ろを見た。
同僚。 責任者。 管理端末。
誰も、 こちらを見ていない。
(……休憩、時間ではある)
「……少しなら」
そう答えた瞬間。
――管理側に、 警報が走った。
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【管理側・緊急報告】
・弓勇者、甘味巡り開始
・装備更新より服選びを優先
・行動ログに「お茶」が追加
・本日、ギルド受付嬢が同行
「――増えてます」
担当者が呻く。
「懐柔対象が」
別の誰かが言う。
「女子です」 「この世界の“生活側”です」
沈黙。
一人が、ぽつりと。
「……戦力じゃない」 「英雄でもない」 「権力者でもない」
「なのに」
「世界の“日常”を 持っていってます」
誰も、反論できなかった。
なぜなら。
美佳は、 何も奪っていない。
命も。 秩序も。 ルールも。
ただ。
「楽しい」を、 共有しているだけだった。




