スイーツは正義!
町の裏通り。
武器屋と防具屋を抜けた先に、 小さな店があった。
看板は地味。 客層も地味。 でも、甘い匂いだけがやけに強い。
美佳は足を止める。
「……ねえ」
弓勇者が振り返る。
「この匂い」
鼻をひくひくさせる。
「絶対、美味しいやつ」
弓勇者は一瞬、言葉に詰まった。
「……甘味、ですか?」
「うん」
即答。
「ここにはさ、 お菓子とかないの?」
弓勇者は、困ったように笑った。
「ありますけど……」
「けど?」
「冒険者は、あんまり来ないです」
「なんで?」
「高いし」 「腹にたまらないし」 「栄養効率、悪いので」
美佳は扉を見つめたまま言う。
「でもさ」
一拍。
「美味しいよね?」
弓勇者は、 その一言で負けた。
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店内。
焼き菓子と、湯気の立つカップ。
美佳は椅子に座るなり、 一口かじって目を丸くした。
「……おいしい」
しみじみ。
「やば、これ」
弓勇者は、 慎重にフォークを入れる。
一口。
二口。
……三口目で、動きが止まった。
「……」
「どう?」
美佳が聞く。
弓勇者は、少し遅れて答えた。
「……甘いですね」
「でしょ」
「……疲れたあとだと、 すごく」
言葉を探している。
美佳は、にやっと笑った。
「効くよね」
弓勇者は、 自分の指先を見た。
弓を引く指。 常に緊張していた指。
それが今、 カップを持っている。
「……私」
ぽつり。
「こういう店、 入ったの初めてです」
「え」
美佳は目を瞬かせた。
「一回も?」
「はい」
「甘いもの、嫌いだった?」
「いえ」
首を振る。
「好きです」
「じゃあなんで?」
弓勇者は、 少し考えてから答えた。
「……必要ないと思ってました」
「何に?」
「人生に」
美佳は、 一瞬きょとんとしてから、 噴き出した。
「なにそれ」
笑いながら言う。
「人生に必要だよ」 「お菓子」
弓勇者は、 何も言い返せなかった。
フォークを置いて、 小さく息を吐く。
「……私」
視線を落としたまま続ける。
「勇者になってから、 ずっと」
「ちゃんとしなきゃって」 「間違えちゃいけないって」
「楽しいかどうかなんて、 考えたことなかったです」
美佳は、ケーキを切りながら言う。
「じゃあさ」
一拍。
「今日が初日ね」
「……え?」
「人生楽しむ初日」
弓勇者は、 思わず笑ってしまった。
小さく。 でも、確かに。
「……ずるいですね」
「なにが?」
「そんな顔で、 そんなこと言うの」
美佳は首をかしげる。
「普通じゃない?」
弓勇者は、 もう一口、ケーキを食べた。
さっきより、 少しだけ甘く感じた。
その日。
弓勇者は、 依頼でも訓練でもなく、
「お茶の時間」を、 人生の記憶に刻んだ。
そして気づいてしまった。
――世界は、 救わなくても、 味わっていいのだと。




