女子ショッピング
焚き火が落ち着いたころ。
弓勇者は、弓を拭きながらぽつりと言った。
「……それ、全部依頼ですよ」
美佳は、串に刺した肉をくるっと回す。
「ん?」
「さっきのスライムも」 「飛んでたモンスターも」 「川辺のやつも」
指を折りながら続ける。
「全部、ギルドの掲示板に貼ってあるやつです」
一拍。
「え」
美佳が止まった。
「……あれ、依頼だったの?」
弓勇者は、少しだけ肩を落とす。
「はい」
「討伐依頼」 「素材回収」 「危険個体の排除」
「全部」
美佳は、しばらく考える。
串を見て、 肉を見て、 空を見て。
「……」
そして。
「へー」
それだけだった。
「じゃあさ」
美佳は顔を上げる。
「私、今まで勝手にバイトしてた感じ?」
「……そうなりますね」
「知らなかったなー」
悪びれもなく言う。
「だって、落ちてたし」 「動いてたし」 「お腹空いてたし」
弓勇者は、 それ以上何も言えなかった。
理屈が、 一切入り込む余地がない。
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少し歩いたあと。
町に戻る途中で、 美佳は自分の袖を引っ張った。
「ねえ」
「はい?」
「この服さ」
汚れ。 裂け。 焦げ。
戦闘の跡が、 普通に生活感として残っている。
「そろそろ限界じゃない?」
弓勇者は、 美佳を上から下まで見て、 正直に言った。
「……冒険者装備としては、 かなりボロいですね」
「だよね」
美佳は即決する。
「着替えたい」
「え、今?」
「今」
断言。
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装備屋。
武器と防具が並ぶ店内で、 美佳は完全にテンションが上がっていた。
「わ、これ軽い」 「これ動きやすそう」 「色かわいい」
「……それ、一応防具なんですけど」
「え、服でしょ?」
美佳は真顔だった。
弓勇者は、 ため息をつきつつも、 一緒に選び始める。
「それは耐久高いです」 「それは魔力通しやすいです」 「それは……完全に見た目重視ですね」
「じゃあそれで」
即答。
「いいんですか?」
「どうせ汚れるし」 「気分上がる方がいい」
完全にショッピング感覚だった。
鏡の前で、 少し回ってみる。
「どう?」
弓勇者は、 一瞬言葉を詰まらせてから答えた。
「……似合ってます」
「よし」
満足そうに頷く。
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会計を終えたあと。
弓勇者は、ふと聞いた。
「……美佳さんって」
「ん?」
「勇者とか」 「討伐とか」 「世界を救うとか」
少し言いにくそうに続ける。
「そういうの、興味ないですよね」
美佳は、少し考えてから答えた。
「ない」
即答。
「お腹すくし」 「疲れるし」 「重たいし」
そして付け足す。
「でも」
一拍。
「面白いなら、やるよ」
弓勇者は、 その言葉を反芻した。
――使命じゃない。 ――正義でもない。 ――義務でもない。
面白いかどうか。
それだけ。
だから、 危険なのに、 誰も止められない。
弓勇者は、 苦笑しながら言った。
「……じゃあ」
「これからも、 依頼、教えますね」
美佳はにっと笑う。
「助かるー」
こうして。
美佳は、 “知らずに依頼を終わらせる存在”から、 “依頼だと知った上で、軽くこなす存在”へ。
ギルドが恐れていた事態は、 また一段、 現実味を帯びた。
本人だけが、 相変わらず楽しそうだった。




