いつの間に、って言われても
昼下がり。
草地の開けた場所で、 美佳は座り込んでいた。
石を並べ、 枝を削り、 何かを作っている。
その前に、 弓勇者が立った。
「美佳さーん」
少し照れた声。
「このあいだの収穫で、 これ買ったんですよー」
差し出されたのは、 以前より明らかに質のいい弓だった。
装飾は控えめだが、 弦の張りも、握りも、全然違う。
「おー」
美佳は素直に感心する。
「前のより、軽いね」
「ですよね! 引きやすくて、ブレも少なくて」
弓勇者は、 少し誇らしそうだった。
「それ、ちゃんと狙うときさ」
美佳は立ち上がって、 弓を受け取る。
「肘、もうちょい下げると楽だよ」
自然な動作。
教える、というより、 一緒に調整する感じだった。
弓勇者が構える。
放つ。
――真っ直ぐ。
「……当たった」
「でしょ」
美佳は頷く。
「変に力入れない方がいいよ。 あと、風」
「風……」
弓勇者は空を見上げる。
「……あ、そっか」
理解が、早かった。
その様子を、 少し離れた場所で見ていた勇者が、 眉をひそめる。
「……お前達」
二人を見る。
「いつの間に、 そんなに仲良くなったんだ?」
美佳と弓勇者は、 顔を見合わせた。
一拍。
「いつの間にって」
美佳が言う。
「……ね?」
弓勇者が続ける。
声が、ぴたりと揃った。
「「ねー?」」
勇者は、言葉を失った。
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焚き火のそば。
弓勇者は、 弓の手入れをしながら言った。
「最初は、 ちょっと変な人だと思ってました」
「ひどいな」
美佳は笑う。
「でも」
弓勇者は弦を張り直しながら続ける。
「話してると、 変なこと言ってるのに、 変なことしてないんですよね」
「うん」
美佳は否定しない。
「変なのは、好きだけど」
弓勇者が笑う。
「ですよね」
その空気が、 完全に“女子会”だった。
戦闘の話も、 ギルドの愚痴も、 装備の話も、 だいたい食べ物の話に戻る。
勇者は、 その輪に入れず、 少し離れた場所で考えていた。
――いつの間にか。 ――警戒対象だったはずなのに。 ――空気が、完全に日常だ。
そして気づく。
誰も、 命令されていない。
誰も、 縛られていない。
それなのに。
――離れにくい。
勇者は、溜息をついた。
「……まぁ、いいか」
誰に言うでもなく呟く。
そのとき。
「ねえ」
美佳が振り返る。
「今日の夕飯、どうする?」
勇者は、 少し考えてから答えた。
「……チキン、まだあるか?」
美佳はにっと笑う。
「あるよ」
こうして。
誰も心を折られず、 誰も奪われず、 ただ“馴染んで”しまった。
ギルドが恐れていたのは、 破壊ではなかった。
――定着だった。




