挟み撃ちにしよう!
森の中。
枝が折れる音。
低く、湿った唸り声。
「……あ」
美佳の放った矢が、 わずかに逸れた。
木の幹に当たり、 跳ねた音がする。
「逃げた」
次の瞬間。
モンスターが向きを変えた。
――勇者一行の方へ。
「ちょ、こっち来る!?」
勇者の誰かが叫ぶ。
美佳は、状況を一瞬で把握した。
「回り込んで、挟み撃ちにしよう!」
声が飛ぶ。
命令口調ではない。 提案ですらない。
当たり前の判断として出た言葉だった。
勇者一行は、 考えるより先に動いていた。
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「前、抑える!」
「右、行け!」
「……了解!」
勇者たちは、 自分たちが誰の指示で動いているのかを 一瞬、忘れていた。
美佳は横から回り込み、 距離を詰める。
「ほいっ」
軽い掛け声。
足を掴む。
バランスを崩したモンスターが、 地面に倒れ込む。
「よし」
止めは、勇者が刺した。
一瞬の沈黙。
そして。
「……倒した?」
「倒したな……」
美佳は、もう次のことを考えていた。
「これ、焼ける?」
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焚き火。
肉が焼ける。
勇者一行は、 さっきまでの戦闘を思い返していた。
「……あれ」
誰かが、ぽつりと言う。
「今の、普通に連携してなかったか?」
別の誰かが、 黙って肉を裏返す。
「……してたな」
美佳は、そんな空気に気づかず、 皿代わりの葉っぱに肉を乗せていた。
「はい」
差し出す。
「手伝ってくれたから、これあげる」
そう言って、 戦利品の一部を勇者たちの前に置く。
角。 皮。 魔石。
「え……?」
「いいの?」
「うん」
美佳は即答した。
「私、食べる分あればいいし」
完全に公平。 完全に無欲。
勇者たちは、 それを受け取るしかなかった。
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その夜。
勇者一行の報告書には、 こう書かれた。
・対象と共同戦闘
・指示は的確
・戦利品の配分あり
・パーティー行動とみなせる
最後に、誰かが書き足した。
※本人に自覚なし
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焚き火が消えかけたころ。
美佳は満腹で、 少し眠そうだった。
「今日、結構うまくいったね」
勇者たちは、答えなかった。
代わりに、 誰かが心の中で思っていた。
――これ、もう
――一緒に旅してるんじゃないか?
だが。
美佳にとっては、
「ご飯を一緒に食べた人たち」
それ以上でも、 それ以下でもなかった。




