表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/44

それ、交換できる?

焚き火の前。


肉が焼ける音がしている。


香ばしい匂いが、風に乗って広がる。


「ご飯食べるー?」


美佳が、いつもの調子で声をかけた。


「今日はチキンだよー」


勇者一行は、もう驚かなかった。


いや、正確には

驚くことを諦めていた。


「……いただきます」


誰かが、静かに言う。


こうしてまた、 勇者と“尾行対象”は、 同じ火を囲んで座っていた。


---


食事が一段落したころ。


美佳は、地面に置いてあった自分の装備―― いや、道具を手に取った。


枝とゴムのパチンコ。


少し煤がついている。


それを、弓勇者の持つ弓と見比べる。


じっと。


「ねえ」


弓勇者が顔を上げる。


「それさ」


美佳は、弓を指さした。


「このモンスターの欠片と、交換できる?」


焚き火が、ぱちっと音を立てた。


「……え?」


弓勇者は、聞き返す。


美佳は、無造作に袋を差し出す。


中には、 角、爪、硬い皮、 魔力を帯びた骨片。


「これ」


一瞬。


弓勇者の目が、

職業的に見開かれた。


「……それだけあれば」


声が、少し裏返る。


「もっと、いい装備が作れますよ」


美佳は首をかしげる。


「買いに行くの、めんどくさい」


即答だった。


「交換のほうが早くない?」


沈黙。


勇者一行の誰かが、

小さく咳払いをした。


弓勇者は、弓を見る。


自分の弓。


ギルドで支給された、

それなりに良い武器。


誇り。 職業。 象徴。


それから、

美佳の差し出した欠片を見る。


「……これ」


ぽつり。


「ギルドに出したら、かなりの額になります」


「へえ」


美佳は興味なさそうに言う。


「じゃあ、いいじゃん」


完全に価値が噛み合っていない。


---


弓勇者は、しばらく黙っていた。


火が揺れる。


肉の匂いが残る。


「……あの」


勇者が言う。


「本当に、それでいいんですか」


美佳は、にこっと笑った。


「うん」


一拍。


「これなら、もっと簡単にチキン取れるでしょ」


その一言で。


弓勇者の中の何かが、折れた。


「……分かりました」


弓を、差し出す。


美佳は、受け取った。


軽く構えてみる。


「おー」


弦を引く。


「楽」


それだけ。


---


その場で。


弓勇者は、 弓を失い。


プライドを失い。


代わりに、 ギルド提出用のモンスター素材を手に入れた。


誰も、

「それは取引として正しいのか」 とは言わなかった。


言えなかった。


---


その夜。


勇者一行の記録に、こう書かれた。


・対象、弓装備を取得

・取得経緯:物々交換

・本人に強化の自覚なし

・目的:食料確保の効率化


最後に、

小さく追記。


※武器を「道具」として扱っている


---


美佳は弓を肩にかけながら、 満足そうに言った。


「これでしばらく、食事に困らないね」


世界は、また一歩遅れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ