装備は、拾うもの
空を、影が横切った。
羽音。 ゆるやかな旋回。
美佳はそれを見上げて、ぽつりと言った。
「……そういえば」
一拍。
「ここ暫く、チキン食べてないな」
認識は完全にそれだった。
空を飛ぶモンスター。 鋭い爪。 嘴。
凶暴そうな見た目。
――だが、美佳の中では、
空を飛ぶ=鳥
鳥=鶏
鶏=食べ物
という、非常に短い思考回路で処理されていた。
「うーん」
美佳は周囲を見回す。
当然、手は届かない。
ジャンプしても無理。 石を投げても
届かない。
「……届かないか」
一瞬、諦めかけて―― やめた。
「でもさ」
視線が、足元に落ちる。
落ちている枝。 細くて、そこそこ弾力がある。
拾う。
ポケットに手を突っ込む。
出てきたのは、 髪を結うためのゴム。
「……これで」
考える時間は、ほとんどなかった。
枝の先にゴムを結び、 もう一本、Y字になりそうな枝を拾う。
ぎゅ、と引っ張る。
「……あ、いける」
即席。
完全に即席。
でも、理屈は合っている。
美佳は小石を拾い、 ゴムに挟み、 狙いをつける。
「えい」
ぱちん。
石が、空を切る。
――当たった。
「おー」
感動は控えめ。
驚きも少ない。
ただの確認。
「当たるんだ」
次の瞬間。
空を飛んでいたモンスターが、 バランスを崩し、 そのまま――落ちた。
どさっ。
地面が揺れる。
美佳は近づいて、 しばらく眺める。
「……うん」
一拍。
「鶏だね」
誰も否定しない。
否定できる者が、いない。
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火を起こす。
羽をむしる。
焼く。
いつもの流れ。
美佳は枝製パチンコを、 横に置いた。
「装備、買わなくてもいいな」
ぽつり。
「作れるし」
それは、宣言ではなかった。
ただの感想だった。
だが――
その瞬間。
世界のどこかで、 数値が、静かに跳ねた。
レベルアップの音はしない。
光も出ない。
ステータス画面も、表示されない。
代わりに。
「次もできる」という確信だけが、残った。
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少し離れた場所。
草むら。
木の影。
勇者一行が、呆然としていた。
「……今の」
「……見た?」
「……武器、なかったよな」
「……あの枝とゴムだけだ」
誰かが、乾いた声で言う。
「……俺たち、何を基準に強さ測ってたんだろうな」
答えは、出なかった。
彼女は、 レベルを上げた自覚がない。
スキルを覚えた意識もない。
ただ――
生活の延長で、
世界の想定を超えていくだけ。
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美佳は肉をひっくり返しながら、 何気なく言った。
「空飛ぶやつも、 慣れればいけるね」
世界が、また一段階、置いていかれた。




