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寝落ち場所

腹が満たされると、人は眠くなる。


それはどの世界でも同じらしく、

美佳は歩きながら、もう半分くらい目を閉じていた。


「……ふあ」


あくび一つ。


さっきまでの「落とし物」のことも、

ギルドの空気が妙に張りつめていたことも、

今はもう、頭の片隅にも残っていない。


「よし」


立ち止まり、周囲を見る。


石畳。 人の流れ。 声。 看板。


その中で、ひときわ目立つ建物があった。


出入りが多い。 笑い声がする。 武器や防具を身につけた者が、当たり前の顔で出入りしている。


「……あ、ここだ」


根拠はない。 でも、美佳はそう思った。


繁盛している店は、だいたい間違いない。


扉を押し開ける。


中は暖かく、騒がしく、

どこか雑多で、落ち着かないのに落ち着く空間だった。


「いらっしゃい」


店主が顔を上げる。


見慣れない服装。 見慣れない空気。


だが、店主は一瞬まばたきしただけで、何も言わなかった。


「泊まり?」


「うん」


即答。


「一晩?」


「とりあえず」


それだけで話は終わった。


鍵を受け取り、部屋番号を聞き、

美佳はそのまま階段を上がる。


廊下を歩きながら、もう一度あくび。


「……ねむ」


部屋に入る。 荷物はほとんどない。 服のまま、ベッドに倒れ込む。


次の瞬間には、意識が落ちていた。


---


その頃。


ギルドでは、緊急会議が開かれていた。


円卓。 険しい顔。 書類の山。


「登録なし」 「依頼なし」 「討伐扱いではない」 「落とし物として提出」 「本人、自覚なし」


誰かが言う。


「……危険人物、ではないんですよね?」


別の誰かが即答する。


「危険“行動”はしていない」 「ただし、危険“存在”ではある」


沈黙。


「宿は?」


「確認済みです」 「冒険者通りの、あの宿です」


一斉に、嫌な顔。


「……目立つな」


「本人は気にしていない様子ですが」


誰かが、紙に書き込む。


※要注意人物

※行動予測不能

※空腹時は特に警戒


書き終えたあと、その人物はペンを止めた。


「……これ、意味あります?」


誰も答えなかった。


---


朝。


宿屋の前。


鎧。 マント。 武器。


明らかに「そういう一団」が、さりげなく配置されている。


さりげなく。 とてもさりげなく。 しかし人数は多い。


扉が開く。


美佳が出てくる。


伸びをして、空を見る。


「……いい天気」


そして、そのまま歩き出す。


警戒網のど真ん中を、

完全に素通りする。


誰も、声をかけられなかった。


数秒。


「……え?」


「……あれ?」


「……今の?」


遅れて、ざわつく。


「おいおいおい!」


誰かが、慌てて後を追う。


美佳は振り返りもしない。


「今日はなに食べよっかなー」

そんな独り言を、のんきにこぼしながら。


彼女はまだ、知らない。


自分がすでに

“監視対象”になっていることを。


そして、世界は気づき始めていた。


――この人、

止めるタイミングを間違えた。

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