それ、食べられますか?
お腹が、鳴った。
美佳は足を止めて、下を見た。
「……空いたな」
宿屋はある。 匂いもする。 でも――
「お金、先に使うのもなあ」
路銀はある。 さっき、確かに増えた。
だが、使えば減る。 減れば、また考える必要が出てくる。
美佳は、きょろきょろと周囲を見渡した。
そのときだった。
ぬるり、と。
足元を、半透明の何かが横切る。
ぷるん、と跳ねる。 ぷるん、と揺れる。
「……これ」
しゃがみ込んで、目を細める。
「捕まえれば、食べられるやつかな?」
答えはない。 だが、動きは遅い。 攻撃性もなさそうだ。
美佳は一拍だけ考えて、結論を出した。
「まあ、ダメならやめよ」
次の瞬間。
踏み込んで、掴んで、
勢いのまま――
倒した。
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焼いた。
思ったより、ちゃんと焼けた。
「……あ」
一口かじって、目を丸くする。
「普通に食べられる」
味は淡白。 癖はない。 塩が欲しい。
でも、空腹には十分だった。
美佳は座り込んで、最後まで食べきる。
「ごちそうさま」
誰に言うでもなく、そう言った。
腹は、満ちた。
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そのあと。
美佳は、ギルドへ向かった。
さっきと同じ受付。 さっきと同じ受付嬢。
「すみません」
受付嬢が顔を上げる。
「……はい?」
美佳は、テーブルに小さな袋を置いた。
中身は、 さっきの“残り”。
「これ、落ちてたんですけど」
一瞬。
受付嬢の思考が止まる。
「……これは?」
「さっきのやつの」
「……やつ?」
「えっと」
美佳は少し考えて、言い直す。
「食べられるやつ」
沈黙。
受付嬢は、袋と、美佳と、
その落ち着ききった表情を見比べる。
「……確認します」
声が、ほんの少し低くなった。
奥へ引っ込む。 誰かとひそひそ話す。 戻ってくる。
「……規定により」
淡々と。
「こちらも、貢献として処理されます」
袋が下げられ、 代わりに、小さな報酬袋が置かれる。
美佳はそれを見て、目を瞬かせた。
「いいんですか?」
「……はい」
「そっか」
受け取る。
軽い。 でも、確かに増えている。
「助かります」
心から、そう言った。
受付嬢は、何も返さなかった。
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外に出て。
美佳は歩きながら、袋を軽く振る。
「腹も膨れたし」
歩調が、少し軽い。
「お金も増えたし」
笑顔。
「……ほくほくだな」
欲が出たわけではない。 計算したわけでもない。
ただ、
路銀は、あるにこしたことがない。
それだけだった。
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ギルドの中で。
受付嬢が、静かにメモを残す。
・登録なし
・依頼なし
・討伐報告ではない
・落とし物として提出
・本人は自覚なし
そして、最後に一行。
※空腹時に外出させないこと
書いたあとで、
自分で首を傾げた。
――無理だな。
そう思った。




