表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/44

転生って言った?聞いてない!!

※この作品は暴走超特急です。途中下車はできません。あらかじめご了承ください。

河原を散歩していただけだった。


天気はいいし、風は涼しいし、特に考え事もない。


美佳は、ただ歩いていた。


――そこで、視界に入った。


巨大な桃。


川辺に、どっしりと鎮座している。

人ひとり分は余裕でありそうなサイズ感。

赤くて、つやつやしていて、やたらと完成度が高い。


「……」


美佳は立ち止まり、少し首をかしげた。


桃の少し手前、川沿いの柵に、

見覚えのない案内板が立っていることに気づく。


矢印と、読めそうで読めない文字列。

行き先、みたいだ。


「駅みたい」


呟いてから、美佳は肩をすくめた。


「……美味しそう」


不審がる様子は、なかった。

普通なら「なんで?」とか「危なくない?」とか思うところだが、

美佳はそういう思考をすっ飛ばす。


「食べていいのかな、これ」


周囲を見回す。

誰もいない。

注意書きもない。


「まあ、置いてあるってことは……」


美佳はそう言って、桃に手をかけた。


次の瞬間。


ぱかっ。


桃が、音を立てて割れた。


「お」


中は空洞で、果汁がたっぷり残っている。

美佳は特に躊躇もなく、かぶりついた。


「甘っ」


満足して、食べ終わる。


そのとき、

川の音が、一定のリズムに変わった。


とん、とん、とん。


まるで、遠くで発車ベルが鳴ったみたいに。


そして。


つるっ。


「――あ」


足を滑らせた。


果汁で濡れた地面。

勢いそのまま、美佳は――


空になった桃の中に、ダイブした。


視界が反転する。


「わ、ちょ――」


ごとん。


桃が閉じた。


外からは、川の音。

内側は、意外と安定している。


揺れが、一定になる。


「……ま、いっか」


美佳はあっさり納得した。


「発車したな」


不安は、ない。


桃はそのまま、川に落ち、

どんぶらこ。どんぶらこ。


---


しばらくして。


衝撃。


がたん。


揺れが止まり、

川の音が、別の音に切り替わる。


外から、悲鳴。


「いたたたたた——!」


桃が傾き、

持ち上げようとした何かが、力尽きた気配。


どさっ。


再び、桃が割れる。


「……あ」


外の光が差し込んだ。


そこにいたのは、腰を押さえてうずくまる老婆。


その背後、

川を跨ぐように架けられた簡素な橋。

橋のたもとには、

さっきとは別の、案内板。


行き先は、ひとつだけ。


――鬼ヶ島。


「お婆ちゃん、大丈夫!?」


美佳は、自分が原因だという事実を一瞬で棚に上げ、

全力で駆け寄った。


「大丈夫、大丈夫……ちょっと腰が……」


そのとき。


「ただいま戻ったぞ——」


声と同時に、視線が刺さる。


老爺。


割れた巨大な桃。

見知らぬ女。

しかも、妙に今風の着物。


「……」


「……」


沈黙。


「なんだ、その着物は」


「え?これ?私の普段着だけど?」


説明は一切、噛み合わなかった。


老爺は美佳を睨み、

老婆を見て、

もう一度、美佳を見る。


「……お前は、鬼の仲間か」


「え?」


「ならば――ここにいてはならん」


老爺は、びしっと川の向こうを指さした。


橋の先。

案内板。

行き先。


「鬼ヶ島に行け」


一拍。


「あー、はいはい!」


美佳は、ぱっと手を叩いた。


「鬼討伐のやつね?」


「……なに?」


「ちょっと待って。道中お腹すくから」


美佳は老婆を見る。


「きび団子、ある?」


「……あるが……」


「やった。じゃ、行ってくるね!」


美佳は、割れた桃を見下ろした。


「この桃、結構丈夫そうだし」


その瞬間。


どこからか、

場違いなくらい元気な声が響いた。


『ダァシエリイェス!!』


――その瞬間だった。


川の音が、変わる。


とん、とん、とん。


一定の間隔で刻まれる、聞き覚えのあるリズム。


美佳は反射的に、桃の縁を掴んだ。


「……あ」


揺れが、来る。


「これ、乗るやつだ」


理解したときにはもう、

桃は流れに身を任せていた。


次の瞬間。


ぽちゃん。


割れた桃は、川に戻された。


美佳は迷わず、

その中に飛び込んだ。


「じゃあねー!」


「もう帰ってくるな!!」


老爺と老婆の叫びを背に。


桃は再び流れ出す。


どんぶらこ。どんぶらこ。


――こうして。


美佳は、

転生した覚えも、死亡した記憶もないまま、

昔話界の路線に乗り込んだ。


なお、この時点で。


「帰れ」と言われていることを、

美佳はまだ、深刻には受け取っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ