糸紡ぎのマリーは月に一度の仮面舞踏会に魂を賭けている
『なろうラジオ大賞7』投稿用。
1000文字以下の短編「舞踏会」小話(999字)です。
月に一度、わたしは生き返る。
落ちぶれ男爵家のわたしは、内職で糸紡ぎをしている。
毎日糸を紡いで、肩も腰もパンパンだ。
でも、この日だけは全部忘れられる。
月末に開かれる、ベルクマン侯爵家の仮面舞踏会。
わたしだって、ここならみんなと対等か、それ以上になれるのだ。
「今度こそ勝つんだから!」
あの男に。
踊りがやけにうまくて、目立って、余裕そうで、とにかくむかつく男がいる。
今回は給金のほとんどをつぎ込んで、渾身の一着を作った。
裏地はないけど、とにかく目立てばいいのよ!
アイツは今日もホールの中央で踊っていた。
「なんだその派手なドレス。目立つ気満々じゃないか」
「文句ある? あんたに勝ちに来たんだから」
「俺に勝てると思ってんのか、ほんとバカだな」
腹立つッ!
わたしは何人もの男とペアを組んで、踊りまくった。
ワルツが佳境に入った時だった。
――べりっ。
相手の男が、わたしのドレスに爪を引っかけたのだ。
やけにお尻のあたりがスウスウする。
……終わった。
いや、終われない!
パンツは絶対見せたくない!
「おい、こっち来い!」
気づけば、あの男が私を抱き上げていた。
「なんであんたが」
「黙ってろ。くっそ……手間かけさせんな」
「助けてくれてる!?」
「別に助けてねえ。ただお前が恥かくの、見てらんねえだけだ」
ジャンッと演奏が鳴り終わった。
途端に、わたしを素早く壁まで誘導する。
「ありがと。今日のところは、アンタの勝ち」
「帰るな。まだ舞踏会は始まったばっかだろ?」
「レディにパンツまるだしで踊れっていうの?」
「チッ……セバスチァン! 熊の爪も引っかからないくらいギッチギチに織った布のドレスもってこい! はは、着て驚け! ウチの執事は有能なんだ」
ウチ? って、もしかしてこの人、ここの侯爵家の――。
「おい、酔ったふりでもして、俺の後ろにいろ。誰にも見せんな。わかったか」
「わかってない。命令しないで」
「……頼むから。な?」
仮面の奥から見えた目が、やけに真剣で、ドキッとした。
その後の私たちの高速スピン対決は、広間中がざわつくほど激しく、舞踏会の伝説になった。
次の日、侯爵家の執事が広場に立て札をたてていた。
「尻の破れたドレスを持っている女性がいれば、名乗り出るように」
翌月の仮面舞踏会。
アイツはわたしのところにまっすぐやって来た。
「なんで名乗り出ないんだ!?」
「女の子が尻丸だしを名乗り出るわけないでしょ!?」
わたしたちの対決はもう少し続きそうだ。




