メンタルチェック
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仕事だから。ゲームだから。そんな感じでずっとゲームの中に居た訳なんだけど、急遽外からお呼び出しがかかった。ゲームを初めてログアウトし、何事かと思っていたんだけど、メンタルチェックだった。何をするのかと思えば、そんな事だったとは。まあ、そもそも体はチューブだらけ。しかも時間の加速したゲームの世界に、時間計算とは言っても、1年近くの間プレイをしていたのだから当然と言えば当然だった。メンタルチェック。それは、俺の最初の関門でもあった訳だ。
とりあえず、何事も無いように、30分程度会話をして、何かしらのメモを取っている研究者たちを尻目に、医者との雑談が続く。そんな事をして何になるのか。そう思わなくもない雑談だったのだ。ゲームの世界を説明してくれないかと言われて、一通り話し終わった後は、本当に雑談をしていたんだ。何の変哲もない雑談を。俺がゲームの中に入ってからどう言う事をしたのかや、健康状態の話なんかもした。極めて重要な話でも何ともない。なのにも関わらず、研究員は血走った眼をしているかの如く、メモを取り続けていた。……一体何なんだ?
「とりあえず、こちらからの話は以上かな。もう一度ゲームについて教えてくれるかい? ゲームの中では、ちゃんと腕や脚、体は動かせるんだよね?」
「ええ、まあ。動かないとゲームも出来ないですからね。動きますよ。まあ、妖精なので羽が生えているんで、移動は脚よりも羽になるんですけど。でも、羽があるからって言っても、現実には無い訳ですから、影響なんて出ませんよ?」
「それはそうだろうね。そんな事で羽が生えたら苦労はしないだろうし、本当に生えてきたら遺伝子的に可笑しいんだよ。まあ、そもそも人間に羽が生えたところで、飛べるかどうかは未知数なんだが。人間の体重をどうやって空中に飛ばすのかって問題は絶対に出てくるからね。流石に現実では不可能だよ。そんな事になったら、君は実験動物として、動物園に入って貰う事になるからね」
「まあでも、身体を動かせるってのはやっぱりいいですよ。何も出来ない今の体と違って、動き回れるのはいいですね。それに睡眠も必要ないので、ずっと動いていられますからね。動けるってのはやっぱり楽しいですし、それくらいはゲームをやらせてもらいました」
「……ん? 睡眠を必要としない?」
「ええ。でも、イベントでは皆5日間の時間を過ごしていましたけど、眠ってましたね。俺は眠らなくてもいいので、ずっとプレイをしていたんですが」
「いや、ちょっと待ってくれ。流石にゲームの中で睡眠無しで動くのは無理だよ? 人間の精神をしているんだから、脳の休息は必要な筈だよ。だから基本的には時間の加速は禁止されている訳だし、条件付きにしても、1日に1時間、8倍までが限界なのはそのせいだからね?」
「でも、眠くなりませんよ? 寝ないといけないんですか?」
「いや、うーん。眠らないといけないはずなんだけどな。……普通は眠るんだよ? その時点で普通じゃない事をやっているって自覚がないといけないんだけど、どうなんだろう? 常にアドレナリンが出続けているのか? それでも限界が来るはずなんだが……。ゲーム内で気絶する様な事は無かったかな?」
「無いと思いますけど。いや、1回だけあるか。ゲーム内で死んだときに、一瞬だけ意識が飛んだような感覚がありました」
「いや、それはゲームの仕様だからちょっと違うかなあ。うーん。今度からはアドレナリンの数値も確認できるようにしないといけないかな。ちょっと、また体に付けるものが増えるけど、いいよね? もうここまでになっているんだし、気にしないよね?」
「ええ、まあ。どうぞ? 気にしませんので。それで、何か解ったんですかね?」
「さあ? 僕も医者だからね。研究者とは違うから、その辺は解らないな。もうちょっと時間があるから、話を続けようか」
そんな感じで話をしていたんだよ。何の変哲もない内容だろう? まあ、ちょっと疑問に思われることもあったんだけど、それはいいとしてだ。別に何も不思議な事はしていないんだがなあ。対人関係も、AIだけどあるし、会話も普通にしているからね。何もおかしな事は無い筈なんだよ。
そこから更に30分くらい話をして、研究者の人のレポートを聞くことになった。まあ、何をしていたのか気になるし、聞くのは良かったんだけど……。
「それで、メンタルチェックですけど、何か解ったんですか?」
「うむ。解ったぞ。君は極めて特殊な例だ。実に研究のし甲斐がある。ゲームの中で約1年間過ごしたのに、メンタルには何の影響も無かった」
「……何の影響も無かったとは思えないんですが?」
「いや、何の影響もない。多少の違和感がある程度だ。それも特殊な妖精という種族になっているからこその違和感だ。空を飛んでいると言ったね? それが平常時だろう? だから、今の状態に違和感があるのか、首の場所が気になるのか、動こうとした形跡があった。それが大きな違和感として残っているのだろう。ベッドに寝ているという感覚が可笑しいと思っている。そういう証拠だ。しかも、ゲーム内で睡眠を一切取っていないときている。故に、ベッドで横になるという感覚に不慣れになったんだろうな。そういう違和感が見て取れた」
「……やっぱり影響はあるんじゃないですか?」
「いや、驚くほどない。君は他のモニターの状況を解っているのかね?」
「いえ、全然知りません」
「一応は契約時に、精神的な保証は無いと謳っている。それは精神崩壊が起きる可能性があるからだ。24時間ゲームの中に居て、何も影響のない人間は居ないと言ってもいい。約1年間もゲームの中に居たのだ。そうだな。現実で言えば、外国に1年間単身赴任したのと同じだな。そうすれば外国の文化に少なからずとも染まる。そして、外国の風土に合わなければ、精神がおかしくなるのだ。その状態でゲームを続ければ、2度とゲームが出来ないほどに精神が疲弊する。知っているかね? 医療モニターとしてゲームをやって貰う人間を探しているが、時間換算にして1年間ずっとゲームの中に居られた人間は1人として存在しないのだよ。大抵の被験者は、ゲーム時間で1か月程度したらログアウトしてくるものなのだ。そこでヒアリングを行い、健康状態をチェックする。そうすると、明らかに精神的な疲労が見えるのだ。ゲームの世界で生活すると言う事に疲れてしまう。それは異文化だからこそ起こり得るものなのだよ。だが、君にはそれが全くない。通常の人間通りの雑談を出来るだけの余裕がある。言い方は悪いが、実験動物としてかなり特殊な個体なのだ。君自身はどう思っているのかは知らないが、これは異常な事なのだよ」
「何か実害はあるんですか?」
「解らん。それが研究だからな。何かの実害があるかもしれない。無いかもしれない。研究とはそういうものだ。結果の解った実験とは違うのだよ。結果が解らないからこそ、こうやって被験者を集めて研究をしているのだ。我々は、君のような精神の持ち主を待っていた。君はもしかしたら、人類の希望になれるかもしれないのだ。誇りたまえ。精神疾患などを治療できる可能性を秘めた人間であることを」
……よく解らないんだが、どうしてそうなる? 何がなんだかさっぱりわからないんだが? 俺は別に特殊な人間ではない。能力も平凡で、何のとりえも無かったブラック企業戦士だ。それが特別な人間だと? それなら特別な人間はごまんといそうなものなんだがな。




