事故
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事故。それは突然起こるもの。今日も世界の何処かで事故は起きる。そんなことに巻き込まれるなんて不運な事だ。そう、それが日本で起きたとしてもだ。俺は、通勤中に事故に巻き込まれた。満員電車に揺られていて、まさかの事が起きた。不幸の連続があったのだろう。不運に不運が重なり、重大事故が起きた。死者822名、重傷者43名、軽傷者なしという大事故だ。俺は、その重傷者の1人になってしまった。
「まあ、死ぬよりはマシだろうとは思うけど、生きた心地はしないだろうし、ずっと不便を被ることになるけどね。重傷者の方でも酷い方だ。それでも死者に比べればという所だね。生き残ってよかったとは言えないだろうが、ずっと入院生活になると思うよ」
「リハビリも無駄なんでしたっけ。もう、首から下が動くことは無いんですよね?」
「99%ありえないね。それだけの影響が出てしまっている。入院費は心配しなくても良いよ。鉄道会社が死ぬまで面倒を見てくれるから。まあ、それ以上に慰謝料の支払いがどうなるのかって話だけどね。遺族に対しての補償の方が大きいだろうし、君の裁判は後回しになるだろうね。裁判をするかい? 個人的にはした方が良いとは思うけど、出廷も無理だしね。どうするのかは自分で決めた方が良い。訴えて勝てる事は確定している。それでなくても、医療費は向こう持ちなんだけど」
「……正直示談でどうにかしたいです。訴えるって言っても、何年もかかるじゃないですか。そんな面倒な事をしても、どうせお金なんて使えないんですし。示談金を両親や兄弟に使ってもらった方がマシだと思うので、そうですね。2億円で示談しますよって言っておいてくれますか? 生涯年収ってその位って言うじゃないですか。稼げたはずの金額を取り戻すくらいは出来るでしょう?」
「先方にはそのように伝えるよ」
正直、これ以上お金をもらったって使い道がない。独身男性35歳。両親や兄弟はいるが、そこに少しでもお金を残して貰えればいいかなって。見舞いもしてくれるんだろうけど、田舎から東京に出てきたからな。頻繁には来れないだろう。……こんなことなら、ちゃんと親孝行をしておくべきだった。後悔は先には来ない。仕方がないとはいえ、自分がこうなるとは思ってもみなかったよ。
「それでなんだけど、入院生活を送るにしても、流石に退屈だろう? だからさ、君でも出来る仕事をやってみる気はないかい?」
「……この状態で何の仕事をやれって言うんです? 言っておきますけど、俺はブラック企業でしか働けない様な人材ですよ? 得意な事なんて特に無いですし、そもそもこの体で出来るんですか?」
「出来るんだな。これが。君には最新型のゲームをやって貰いたいんだよ。モニターがどうしても必要でね。医療分野にも期待がされているんだけど、普通の患者さんにこんなことは頼めないからさ。なんていっても、ゲームの中に入って、暫く出て来ないでくれってお願いだしね」
「……新型のゲームって、確か時間を引き延ばしていましたよね? それで現実に影響が出るかもしれないって話で、1日1時間しかゲームを出来なかったはずですけど?」
「そうだよ。でも、それは民間の話だ。ゲーム会社に勤めるか、こういった医療モニターには、現実時間の枷が無いんだよ。勿論だが、寿命が縮まる可能性もある。海外ではそういった研究もあるしね。脳が過剰に劣化する恐れが、みたいな。でも、正直に言おう。君にそのデメリットは当てはまるかい?」
「……まあ、もう死んでいてもおかしくないですしね。解りました。モニターですか? それをやろうと思います。けど、こっちにメリットはあるんですか?」
「メリットはちゃんと給料が発生するって事と、ゲームの中では自由に動けることだね。暇で暇で仕方が無いだろうから、ゲームをしていた方が紛れるんじゃないかな。まあ、一応は医療側にもメリットはある。そういう患者がベッドを占有することで、国から補助が出るからね。貴重な研究資料になるんだろうし、もしかしたら、こういった神経系の障害にも影響が出てくるかもしれない。それを調べる事が、将来の医療に役立つかもしれない。そういう事なんだよ」
なるほどな。時間無制限で、ゲームで遊べと。そういう事か。むしろゲーム世界に住むと考えた方が良いのかもしれない。それでモニタリングをして、色んな医療に役立てるんだろう。まあ、それくらいなら良いか。どうせやれることも無いんだ。医療モニターくらいはやってやろう。
「解りました。医療モニターの件は受けます。その方が俺も退屈しないで済みそうですし」
「良かった。それじゃあこの契約書を見て欲しい。これで良ければ、代筆して明日からでもモニターをしてもらうから」
「……準備が良いですね?」
「まあ、君がやれることってこのくらいしかないしね。多分やるだろうと思って周辺機器も揃えてあるし、その他計測器なんかも揃っている。後はサインさえあれば、何とでも出来るんだよ。まあ、その分こっちとしては、徹夜で作業をしないといけないかなって感じだけどね」
「そうか。そうですね。どちらにしても、暇になったらやるしかないんですもんね」
「そう言う事だね。じゃあ、サインをしておくってことで良いかな?」
「はい。お願いします」
「それじゃあ、とりあえず、何のゲームをするのかなんだけど、どうする? ある程度タイトルは選べるんだけど」
「……最近のゲームは解らないので、最新のゲームでお願いします。どれでも同じですよね?」
「まあ、そうなるだろうね。それなら、……お? ちょうど明日発表のタイトルがあるね。『ミラーガーデン』って名前らしい。それにしてみるかい?」
「はい。お願いします」
「それじゃあソフトはダウンロードしておくよ。後はヘッドセットを持ってきたら、それを付けてもらって、計測器なんかも付けて、点滴やその他色々をやってってするから、まずは手術だね。準備が必要だからさ。ちゃんと痛くない様にはするからね。……もっとも、痛いとかも解らないかもしれないけど」
「え? 手術が必要なんですか?」
「当然だよ。人工肛門も取り付けないといけないし、色々とあるんだよ。色々とね。流動食なんかも流し込まないといけないし、手術は必須。まあ、次に目が覚めたら、ゲームの開始画面が出てくると思ってくれれば良いよ。今から皆で必死になって周辺機器をセッティングしないといけないから、気が付いたらゲームの開始画面になっていると思うよ」
「……まあ、その辺は信用します。遅かれ早かれそういう事はしたんでしょうし」
「思いっきりが良いのは良い事だ。それじゃあ、手術に向かうから、眠ってくれるかい? まあ、強制的に眠ってもらうんだけどね?」
「流石に意識があったら怖いので、それでお願いします。それじゃあ、ゲームを楽しませてもらいますね」
「そうしてくれ。その方が皆が助かるからね。じゃあ、また手術室で。意識は無いんだろうけど」
「意識なんて無い方が良いですよ。普通の人は、血を見るのに慣れていないんですから」
ブラック企業戦士として働いて十数年。こんな結末になるなんてな。働いていたころは、そんなことを考えた事も無かった。ずっとここで働くんだろうなって。そう思っていた。定年まで働いて、一人寂しく死んでいく。そんなことを考えていたよ。まさかこんなことになるなんて。まあ、生き残ったんだから、何かした方が良いよな。それがゲームだなんて。何十年ぶりだろうか。