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君のための魔王になりたい―転生ミミックの恋愛譚―  作者: 佐賀ロン
とりあえず兄モドキと決着をつけよう
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名前と報酬

 が、すぐに顔を青くし、唇を噛む勢いで叫んだ。


「いや、本当は冒険者ギルドに入って一ヶ月のヒトに、魔王の手先を任せるのって、無茶にもほどがあるんだけどね!?」


 それは確かに。

 初心者の安全面でもだけど、そもそもよくそんな博打決められたよな、皆。

「全然待遇良くないのに、なんか良い話風にまとめそうになっちゃった……」頭を抱えながら、ヒナさんの目がぐるぐると回る。


「冒険者の階級を一気に上げないと、割に合わないよね。報酬……は、私が巻き込んだんだし、私が払うことになるのかな」


「魔王の手先と戦うって依頼、相場っていくらなんだろう……」指を折り曲げながらそう言うヒナさん。

 魔王の手先と戦う報酬かあ。かなり高いんだろう。正直、ヒナさんから大金を貰うのは気が引ける。

 俺がそう言うと、「じゃあ労働力とか、して欲しいこととか?」とヒナさんが提案する。


「あ」

「え?」


 ……いや、報酬でちょっと思いついたんだけど、流石に今言うことじゃない。そもそもこれは報酬にすることじゃないし、空気が読めないにもほどがある。


「や、なんでもない」


 俺がそう言っても、ヒナさんがじっと見つめてくるので、俺は観念して自白した。


「…………名前呼びをして欲しいデス」


 あんまりにも恥ずかしくてキモい顔になってはいないだろうか、なんて心配する。

 ヒナさんは目を瞬かせた後、名前を呼んだ。


「マコトさん?」


 思わず顔を覆う。

 ……なんだろう、この、照れくささというか。

 まるで新婚の呼ばれ方みたいな。いや、単に名前にさん付けされてるだけなのに、我ながら考えてることちょっとキモいな。

 落ち着かせるために長く息を吐く。


「な、なんか変だった!?」

「いや変じゃない! 嬉しいです!」


 ため息だと勘違いさせてしまったらしく、俺は慌てて否定した。

 耳元で心臓がバクバクする。ヤバい。いざ名前呼びされると照れくさすぎて暴れだしたくなる。


「ごめん、今やると嬉しすぎて色々支障が出そうだから、後からお願いします」


 すんごい勿体ないこと&わがままを言っていると思ったけど、このままだと兄モドキたちとの対決すら忘れてしまいそうだったので、ストップを掛けてもらった。


「……もしかして、本当はファミリーネームで呼ばれるの、嫌だった?」

「や、そんなことないよ!? 別に名前自体にこだわりがあるわけじゃないし、ヒナさんが好きに呼んでくれていいし!」


 単にヒナさんだけ苗字で呼ばれるのは寂しいな、って思ってただけで、と、聞かれてないことまで続けようとして、やめる。

 ヒナさんが何かを考えていた。


「ヒナさん?」

「……もし、私がヒムロさんに『名付け』するって言ったら、ヒムロさんどう思う?」

「え?」


 ちょっと前、ボブが『名付け』について説明してくれた。

 普通、魔物には名前が無いのだと言う。名前を付けることは契約の一種であり、特に魔物に名付けを行う者は、「眷属」として支配下に置くことになるため、魔力をかなり使うことになる。名前がついた魔物は『ネームド』と呼ばれ、他の魔物より強くなるんだそうだ。

 そう言えばリンも最初、俺に名前があることに驚いていたな。

 この街の魔物や魔族に名前があるのは、魔王セーレに名付けられた親が自分の子に名前を付けることで、当人がいなくても「眷属」の契約が続いているから、とのことだった。


「強くなるなら打てる手は打っておきたいし、ヒムロさんはすでに名前を持っているから、上手くいくかわからないんだけど、報酬としてはアリかもしれないなって……」

「や、ちょっと待って。名付けには、『魔力をかなり使う』んじゃなかったっけ?」

「うん」

「じゃあダメだろ!」


 少なくとも今は!

 ヒナさんは今、スキルを使えない。そもそも本来なら精神に深いダメージを受けていて、目覚めなくても不思議じゃなかった。

 魔力というのは減ると命に関わることは、指導期間に聞かされている。


「さっきも言ったけど! ヒナさんに何かあったら俺本当に何するかわかんねーよ!? いのちだいじに!」

「魔王セーレみたいに?」


 ヒナさんの言葉に、俺は目を見張った。

 ヒナさんも無意識に言っていたのか、はっと我に返ったような様子を見せる。

 そう言えば、魔王セーレと『魔王の花嫁』の話をした後から、ヒナさんの様子がおかしい。


「ごめ、………………ええと……」


 ヒナさんは何度か何かを言いかけ、その度に口を閉ざした。

 言葉を選んでいるのか、言葉にまとめることが出来ないのか。


 ……ちょっと、ずるいかもしれないけど。

 俺はそっと、彼女の両手を握る。

 

『私のために、ヒムロさんに誰かを殺して欲しくない』


 頭の中で浮かんだのは、血が流れ、たまった床。

 ヒナタさんが握る長剣に映った、ヒナさんの顔だった。

 割れたガラスの破片が飛んできたみたいに、鋭く硬い心の声が聞こえてくる。


『だって日本は平和で、人どころか魔物や動物を殺す必要すらなくて』

『魔王セーレみたいになることは、ヒムロさんがあっちで築き上げてきたものを捨てさせてしまう』

『もし魔王セーレみたいに何かを滅ぼすことになるのだとしたら、それはきっと私がそう願ったからで』


『自分の願いを肩代わりさせて、何もかも奪うのはもう――絶対に嫌だ』


 伝わってくるのは、胸が張り裂けそうなほどの激情と、ハッキリとした意志だった。 


 ――「あなたは、あの子のためにその力を使うんだろう」。

 ――「それがあの子には耐えられない」。


『精神の門番』が言った言葉が蘇った。


「……ヒナさん、ちょっとこっちに座って」


 俺がソファを指さす。

 ヒナさんと並んで座ると、視線が近くなった。

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