孤独の形
孤独というのは、例えば俺がダンジョンにいた頃みたいに、暗くて、誰もいなくて、楽しくないものだと思っていた。
だから今、ヒナさんの『孤独』というのを見て、呆気にとられている。
目の前に広がっていたのは、俺がよく見た屋台のならび。
浴衣を着た人、半袖のTシャツを着た軽装の人、様々な人間が明るいライトに照らされた道を歩く。あちこちに設置されたスピーカーから、大音量の音楽が流れていた。その音が気にならないのは、通りすがる人達の話し声や、屋台から聞こえる音や掛け合いの声がぶつかってかき消すからだ。
これ、日本の祭りだ。
『ユニークスキル:精神の門番』はヒナタさんの姿を反映していた。これもヒナタさんの記憶が反映されているのだろうか。いやそれより。
「……この中からヒナさん見つけんの?」
一人言を零しても、誰も凝視したりしない。それぐらい人がいた。
流されないよう歩いてみるものの、すぐに人混みに流される。背が小さいのもあって見えづらいのか、何度か人とぶつかった。
「すみません」と声を掛けても、大概の人達は会話に夢中か、この人混みの音でかき消されて聞こえないのか、通り過ぎていく。
何とか会話から情報を拾うと、どうやら有名なミュージシャンが招待されているらしい。それもあって、遠方からファンがやって来ていたようだ。そりゃ人も混むわ。酸欠とか集団パニックとかになりませんよーにと願いながら、何とか前へ進む。
夜の闇とカナリア色のランプ、制汗剤と汗の匂いが混ざって、頭がぼんやりする。
その中で、ふと赤が混じった黒髪の女性を発見する。
俺は慌てて名前を呼び、腕を掴んだ。
「ヒナさん!?」
だが、振り返った顔は、ヒナさんじゃなかった。
「あ……すいません」
パッと手を離す。
子どもが知り合いを探しているように見えたのだろう。女性はにっこり笑って、「いいえ~」と手を振って去っていった。
は、恥ずかしい……。いや、この姿で良かったかもしれん。もし前世の成人男性としての姿だったら、お巡りさんを呼ばれていた。
もうこれ、迷子センターで放送してもらった方がいいんじゃないかと思ったが、その迷子センターのテナントもわからない。絶え間なく続く人の群れに、億劫になっていく。
あちこちから人の声は聞こえるが、それは自分に向けられたものじゃない。自分の声がかき消されそうなほど、人の声に埋もれる。
これ、『読心』を持ったヒナさんの日常なんじゃないだろうか。
最初これが『孤独』だということに違和感しかなかったが、そう考えるとしっくり来た。
「ヒナさん!」
誰かが俺を怪訝な目で見ては、顔を逸らす。
構うもんか。ここで恥とか気にして、なりふり構わず探しに行かなくてどうする。どーせ現実じゃねーし!
人をかき分けて、名前を呼び続ける。そろそろ喉が枯れそうになって来た、その時だった。
月光のような金髪が、視界の端でかすめる。
その左耳には、青く光る水晶のピアスが光っていた。
「――ヒナ、」
名前を呼びかけた瞬間、俺は誰かに突き飛ばされる。
「大丈夫か!? すまん!」
突き飛ばしたオッサンはすぐさま俺に気づき、手を差し伸べてきた。俺はその手をとって立ち上がる。
だがそこにはもう、ヒナさんらしき人物はいなかった。
このオッサンのせいで見失ったことに当たり散らしたくなったが、「本当にごめんな。怪我ないか?」と純粋に心配している姿を見ると、その事を考えたことにちょっと罪悪感を覚える。
……落ち着け。キレたところで、状況は何も変わらない。
それよりこの世界のヒナさんの姿が、俺が思っているヒナさんじゃないことを考慮するべきだ。『跳躍』を使って上から探そうかとも考えたけど、ヒナさんの髪色はヒナタさんへの憧れで染めたもので、この精神世界だと元の金髪かもしれない。そう考えた時だった。
キィン、とハウリングする。
めいいっぱい息を吸い込む音の後に、俺は探し求めていた人の声を聞いた。




