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君のための魔王になりたい―転生ミミックの恋愛譚―  作者: 佐賀ロン
そして彼女は、ミミックに会った
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ヒナ視点 1 そして×××××××は、ヒナになった

 目が覚めると、私はベッドで寝ていた。

 辺りを見渡すと、そこは木造の温かみがわかる、素朴な部屋だった。窓を見ると、外は真っ暗だ。

 薄くスミレ色がかった銀髪を持つその人は、「やあ」と微笑んだ。


「具合はどうだい?」


「一応、回復魔法は掛けておいたんだけど」と言うその人の傍には、魔術師が使う杖が掛けられていた。

 アトラス王国では、エルフの魔術師は少数だ。少なくとも、私は彼の顔を見たことがない。

 けれど、『読心』では彼の心は読めなかった。スキルはもう、封印されていないのに。


「ん? ああ、心が読めないのが意外かい?」


 エルフの魔術師は笑いながら、それ以上は何も言わなかった。

 私の『読心』を見抜いている。この魔術師は『鑑定魔法』が使えるのか。その魔法が使えるのは、大体冒険者の魔術師だ。

 エルフは人間より多くの魔力を持つと聞いている。魔力抵抗で私の『読心』が弾かれても、不思議じゃない。

 相手が何者か、ある程度目星がついたところで、ようやく私は、真っ先にするべき質問をした。


「……あの、ここは?」


 私が尋ねると、「ああ、ここはね」とエルフの魔術師は言った。


「ここはホーランド共和国だよ。飛び地じゃないところのね」

「ホーランド共和国……」


 アトラス王国の南東にはアルビオン王国のローレンス伯爵領が、南西にはホーランド共和国の飛び地がある。その飛び地より向こうには、ドワーフが住むイルマリ王国に繋がる洞窟がある。

 私たちがいるのは、その向こうのホーランド共和国の領地、ということだ。


「……ここは、あなたの部屋ですか?」


 私がそう尋ねると、エルフの魔術師は「いや?」と答えた。


「仕事帰りの綺麗なお姉さんに頼んで、泊まらせてもらったんだよ」

「……」


 何だろうこの人。






 エルフの魔術師は、メルランと名乗った。


「ホーランドでも米が食べられるんだねえ」


 メルランは人の家の台所を、我が物顔で使い始める。

 怒られやしないかと思ったけど、メルラン曰く「部屋の主は仕事に出掛けていて、自分の分のご飯の分も作ってくれるなら好きに使って」と言付けを受けているらしい。


「お粥を作ってみたけど、どうかな?」

「……お粥」


 それは、ヒナタさんの記憶にある食べ物の名前だった。

 ただ、ヒナタさんの記憶とはかなり違う。

 ヒナタさんの記憶にあるお粥はグツグツ煮込まれたお米で、具材は葉野菜が入っていた。けれどメルランが作るお粥は、シナモンの香りがする。中にはレーズンが入っていた。

 いや、これはアトラス王国でも食べたことがある。

 けれど私の頭の中では、そんな薄っぺらい思い出より、ヒナタさんが持っていた『日本』の記憶が、ずっと鮮明にあった。


 スプーンで掬う。そんなに熱くなかったので、私はそのまま食べた。


 ……甘い味がした。


 目頭が熱くなる。胸の奥から、押し寄せてくる。

 なんで、どうしてこのタイミングで、味覚が戻ってくるのか。

 せっかく味覚が戻ったのに、涙と鼻水でまた分からなくなる。

 それでも私は食べ続ける。

 いっぱいなのは、お腹なのか、胸なのか。わからない。


 ただきっと、これから、私は私が目にするもの、耳にするもの、その全てに、ヒナタさんの記憶を引っ張り出してくるのだろう。

 そう思ったら、さらに涙が混み上がってきた


「……ごちそうさまでした」


 泣きすぎてしゃっくりをしながらそう言うと、メルランは「よく食べたね」と皿を下げた。

 そしてお茶を注いで、私に持ってきてくれた。


「さて」メルランは立ったまま、テーブルに手を置いてカップを持った。


「君は一体、何者なのかな?」


 そう言われて、私はどこまで話せばいいのか悩む。

 私はアトラス王国から追われている。どれぐらいの罪になるのかはわからないが、全てを話せばメルランを巻き込んでしまうかもしれない。

 ……いや、いっそのこと、私は捕まった方がいいんじゃないか。


 犠牲を強いて得た平和はおかしいと、あの時強く思った。

 けれど、私はここまで来るのに、沢山の兵士を殺した。

 私を助けるために、ヒナタさんが沢山殺した。

 手のひらに、まだ血の濡れた感覚と、赤の残像が残っている。

 それなのに、『生きたい』と思うことが、許されるんだろうか。



「君の意に沿わないことはしないよ」


「助けになりたいだけだ」メルランは優しく笑った。

 私は首を振る。


「違うの、違うんです。……私は」


 ヒナタさんは、全てを掛けて私を助けてくれた。それこそ、命を懸けて。

 だけど私は、それに見合う人間じゃない。


「こんな風に助けられるような価値なんて、ないんです」


 私がそう言うと、メルランは少しだけ黙った。

「ふむ」そう言ってカップをテーブルに置いて、



「では君は、まずは私を『クズ』と呼ぶことから始めようか」



 と言った。


「…………は?」


 何を言ってるんだろうこの人。

 戸惑っている私に、メルランは大袈裟に身振り手振りを始める。


「私はね、そりゃあ仲間から『コイツに金を預けてはいけない』『金を貸してもいけない』『金貸す時は金をドブに捨てる時と覚悟している』と、よく言われてね」

「は、はあ……」


 そこまで言われるのか。いや、『綺麗なお姉さんに頼んで部屋に上がらせてもらう』という点で、どことなく、その手のことに慣れていそうな気もするけれども。

 けれど、出会ってばかりの、それも自分の命の恩人に『クズ』と言えるわけがなく。そもそも、その行為になんの意味が。


「そんな『クズ』の私が生きているなら、自分だって、生きていていいと思えるだろう?」


 ……その言葉を聞いて、私は目を瞬かせた。









 ホーランド共和国にしばらく滞在した私は、その後メルランと行動を共にすることになる。

 メルランが引き受けた依頼は、ほとんど私がこなすことになったけれど(そして依頼をこなせばこなすほど、何故か借金が増えて行ったけど)、私はヒナタさんから受け継いだスキルを使いこなせるようになった。

 その冒険の末、私はアルビオン王国の向こうにある、都市セーレにたどり着いた。


「冒険者ギルドに加入したいのですが」

「名前は?」


 受付のジョージ神父にそう言われ、私はフードを取った。

 下から現れるのは、金髪ではなく、ヒナタさんと同じ色の髪。そして、左耳にはピアスをつけていた。



 ――これからどうしようか考えた時。そうじゃなくても、ふとした瞬間にヒナタさんのことを思い出した。

 私の身体から、ヒナタさんが消えることは無いとわかった時、私は髪の色を染めた。


 ヒナタさんの真似をする私を、彼女はどう思うだろうか。

「真似するな」と怒るだろうか。素っ気なく、「許可とって」なんて言うだろうか。でも。


 ――「私に、誰かの許可をとって生きる暇なんてない」。

 私の手を引っ張って走った、ヒナタさんの言葉を思い出す。


 全部、自分で選ぼう。

 自分で決めたことなんて、今までほとんど無かったから、どうすればいいのかわからないけど。

 名前も、髪の色も、職業も。どうありたいのか、全部自分で決めよう。

 それが例えば、空っぽな私による、憧れの人の模倣ミミックだとしても。


「ヒナ。……冒険者の、ヒナです」


 私は、私のなりたい私になる。

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