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君のための魔王になりたい―転生ミミックの恋愛譚―  作者: 佐賀ロン
ミミックに転生したんですが
3/57

ヒナさんのカッコかわいい戦闘シーン

 ここまで来るってことは、多分ヒナさんは強い人なんだと思う。少なくとも俺よりは。

 でも、俺はミミックになってからここを動いてないし、どれぐらいの難易度で、どれぐらい危険があるのかわからない。

 俺を置いていっていいよ、と言ったけど、ヒナさんは俺を背中に括りつけた。


「もしかしたら、元の場所に戻れない可能性もあるし。ヒムロさんも、出来たらこのダンジョンから出たいんじゃない?」


 それはそう。

 だけど本当におんぶに抱っこだなあ、これ。

 ヒナさん、重くないかな? 彼女は一向に嫌な顔をしないけど、心配になる。

 けど、急に足が生えるわけでもないし。ここは甘えるしかない。

 俺たちは、その奥へ進んだ。


「……」


 ヒナさんは無言だ。

 そりゃそうだろう。俺、今モールス信号打てないし、ヒナさんが一人言を言うみたいになってしまう。そもそも危険があるかもしれないから、話しかけたら邪魔になりそうだし。

 けど、なんと言うか。沈黙が気まずいわけじゃないけど、歯がゆいというか。

「あ、あー。全然出てこないねー?」

 裏返った声で、ヒナさんが話しかけてきた。気まずくなったんだろうか、それとも俺への気遣いか。相槌の代わりに、俺は小さくカタン、と蓋を鳴らした。

 あ、やべ。ヒナさんの髪挟んじゃった。切ったり痛めたりしないようにしないと。綺麗な髪だし、きっと大切に手入れしているんだろう。なんか甘い匂いがするし。

 ……いやこれ、セクハラっぽいな。


「せ、せっかくだし、強いの、出るといいねー」


 ヒナさんが強者のセリフを言う。

 声は裏返っているものの、恐怖のようなものは感じられない。そもそも、俺を背負って動いているのに、息切れもしてないし、体幹が優れてるのか揺れも感じない。

 フード付きのローブを羽織っていたから、ジョブは魔術師かなって勝手に思ってたけど、戦闘系っぽい。武器は持って無さそうだし、素手で戦うのかな?

 ヒナさんが颯爽と戦う姿を想像して、ちょっとだけワクワクしていると。

 耳をつんざくような唸り声が、地面にまで伝わる。

 なんだ!? ドラゴンの鳴き声!?

 俺は必死に目を凝らした。

 すると暗闇から、わずかに光る眼を見つける。

 それは敵意、いや、殺意か? 赤く光る眼は、俺たちを逃がさないとばかりに見下ろしていた。

 やがて、それは姿を見せる。地面を揺らしながら。


 そこに。

 ヒナさんの背丈の3倍はありそうな、巨軀なイノシシがいた。


 あかん。

 その言葉が咄嗟にでてきた。俺、関西で生まれ育ってないのに。

 いやでも、これは無理。どう見てもダンジョンの主って体つきじゃないですか!?

 ダメだ逃げよう、と必死に訴えても、イノシシの声に消されて俺の蓋の音は届かない。

 その時だった。

 ヒナさんが踵を返して、逆方向へ思いっきり走る!

 ぐえ、とすごい勢いで引っ張られるも、俺は安堵した。

 よかった。強いからって、他人を、ましてや女の子を傷つけてまで欲しいわけじゃない。万が一勝てたとしても、ヒナさんが大怪我を負ったら、俺は悔やんでも悔やみきれない。

 と思うのと同時に、違和感を覚えた。

 彼女は本当に、逃げているんだろうか?

 黒い髪が踊る。その向こうに、ヒナさんの表情がわずかに見えた。

 笑っている。

 そう理解した途端。

 後ろから、激しく物音を立てて魔猪がこちらに迫ってくる!!

 ああああ! そういやクマから走って逃げたら追いかけられるからゆっくり動けって聞いたことがある!! これ悪手!?

 このフロアに来る時の入口は、このフロアの天井より狭かった。そこまで走っていけば、あの巨大のイノシシは天井にぶつかってつっかかるかもしれない。けど、そんなの間に合わない!

 し、彼女はそちらに向かっていない。

 え、なんで?

 岩が隆起する壁に向かい、岩を足場にして、ぴょん、ぴょん、と壁を伝った。

 そして思いっきり壁を蹴り、まるでバレエを踊るかのように、くるり、と空中で一回転。

 まさか?

 そしてものすごいスピードで向かってくる魔猪目掛けて、蹴った。

 ――狙いは、魔猪の鼻。


 そしてそのまま、魔猪はヒナさんの蹴りに触れる前に吹っ飛ばされた。

 砂埃っぽい何かが吹き、遅れてガン!! という音が届く。


 頭の中で――いや、箱だし頭はないんだけど――何かの音がした。

 レベルアップだ。

 ひらり、と、危うげなくヒナさんは着地した。ローブがまるでスカートのようにふわり、と舞う。

 砂埃が晴れると、横たわって動かないイノシシの姿が見えた。

 ……どうやら、本当に倒してしまったらしい。

 ヒナさんはまず俺を地面に置いてから、降りかかった砂を払い落とした。

 ね、とヒナさんは得意げに言った。


「私、強いでしょ?」


 そう言って、力いっぱい笑う。

 お見逸れいたしました(カッコかわいい)

 今後、ヒナさんの強さを全面的に信用することにした。

 

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