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君のための魔王になりたい―転生ミミックの恋愛譚―  作者: 佐賀ロン
ヒナさんへ贈り物をするために
11/57

男として見られたいミミックと、女として見られたくない剣士

 ■


 リンは対戦者と向き合っていた。

 二人は悠然と立っていたが、そばで見ている俺は緊張していた。

 うっかり気を抜けば、二人が動き出す瞬間を見逃してしまう。二人がいつ動きだしてもいいように、注意深く見ていたのだ。


 ――動く!


 俺はすかさず『スキル:防御結界』を使用する。

 対象は俺でも、リンでもない。リンが持つ細剣(レイピア)だ。


『スキル:防御結界』は対象をモノに変えれば、武器の耐久度を上げ、ダメージをゼロにすることができる。また、全体に張ると対象者が身動きが取れず、こちらが攻撃を仕掛ける前に追撃で負けてしまう。

 覚えたスキルは最大限使えるようにするため、こうやってリンの指導のもと練習していた。


 リンの細剣(レイピア)が、相手の拳を受け止める。

 相手は素手ではあるが、魔力を纏うことで防御していた。研ぎ澄まされた技は、防御結界だけではなく、細剣(レイピア)すら破壊してしまうだろう。

 リンの細剣(レイピア)が拳を受け流す。

 なんとか、防御結界を破壊されずに受け流すことが出来た。



「……ふむ。やはり、筋がいい」



 リンの対戦者――ジョージ神父が言った。

 渋くダンディな声色は、ゆったりとした喋り方でありながら、なんとなく威圧感もある。格闘技と治癒魔法が使える僧侶クレリックという点もあって、どこかの某神父みたいだ。


「攻撃の方向を見極め、最小限の結界を張ることで、細剣(レイピア)の速さを最大限生かしている。もしや君は、何か武道でもやっていたのかな?」

『いや……剣道を授業でかじった程度です』


 強いて言うなら、格闘ゲームやってました。

 俺が愛好していた格闘ゲームは、シールドでガードすると硬直し、連撃を食らうとシールドが破壊されて負けてしまう。だが、攻撃を受けた瞬間にシールドを解除すると、攻撃を完全にバリアすることができる。

 タイミングを見極めることで、いかにフレーム短縮させるかが問題なんだよな。


 とはいえ、二人の動きは完全には追えていないし、何より二人の気迫に負けてスキルの発動がギリギリだ。気を抜けば発動する前に終わってしまっている。

 これが練習じゃなかったら、間違いなく防御結界を張る前にボッコボコにされてただろう。


 もっとも、戦うのは俺じゃなくて、リンだけどね。リンなら俺の援護なしに戦えるだろうし。

 ギルドの演習場を後にするジョージ神父を見て、俺は遠い目をした。

 あの人、あれだけ強いのに、冒険者じゃなくてギルドの受付やってるんだよな。何でだろ。


「お疲れ様。少し休憩入れて、仕事行こう」

『ああ、うん』


 リンの言葉に、俺は上擦った声で返す。

 ……この数日で、何とかヒナさんへ贈るピアスの金額はだいたい貯まった。

 付き合ってくれたリンが、こっそり多めに報酬金を俺に分けてくれたっぽい。

 そのことについてお礼を言おうかと思ったけど、言ったら言ったらで「一々感謝しないで」と言われそうだから、心の中で両手を合わせて感謝した。

 だけど。

 ヒナさんへの贈り物を思い出す度、メルランの言葉が蘇る。


 ――「つまり君は、自分より弱いヒナを望んでいるんだね?」。


 そうじゃない、と思うのに、反論出来なかった。

 言語化できないってことは、その通りだったりするのか、とか。


「……どうしたの?」

『あ、いや!』


 ぼーっとしていたのだろうか。リンに声をかけられて、俺はなんでもない、と誤魔化す。

 だがリンは、じーっと俺を真顔で見ていた。


 ……まずい。

 このままだと、白状するまで睨まれそう。

 けど、昨日のことを正直に言いたくはなかった。リンの独特な言葉選びでは、さらに追い打ちくらいそうだし。


 なんだ、何言って誤魔化す。ヒナさんに関係しないで、かつなんとなく関係しそうなワードは……!


『そ、その! リンって、強いよなって!』

「うん?」

『ヒナさんも強いんだよな。ギルドの皆が、よく噂してるよ』


「強さ」という話題で、俺は突破することにした。

「ヒナとリン、果たしてどちらが『最強の女』なのか?」――ギルドのテーブル席で、聞こえてきた会話だった。


『冒険者たちって、たまにギルド内のメンバーで試合やってるんだろ? ヒナさんとリンは戦うことあるのかなって』

「ない」


 キッパリと、リンは言った。


「私は、ヒナとは絶対に戦わないことにしている」

『え、そうなの? なんで?』

「女同士が真面目に戦闘をしていても、ストリップショーだと思われるから」


 呑気に「二人が出たら盛り上がるだろうに」と思っていた俺は、冷水を頭から掛けられたような気分だった。


「皆がそうってわけじゃないけど。試合中に聞こえてきたりするんだ。服が破れたらエロいとか、尻の形がいいとか。胸が大きくて揺れるとか、胸が小さいのも価値があるとか」


 淡々と、リンは続ける。


「私は、剣士以外の仕事をしたくない。性的な対象として見られたくない。だから基本的には体の線が出づらい服を着てるし、出来ることなら女をやめたい。……私は私として見られたい、それだけなんだけどね」


 リンは、そう言って目を伏せる。


 俺は。

 リンを最初に見た時、膨らんだ胸で性別を判断してした。

「膨らんだ胸を見ないと女だとわからなかった」ことは失礼な行為だと思ったけど、そもそもリンは「女」として見られたくなかったんじゃないか。

  

「……どうしたんだ。黙り込んで」

『いや、あの……反省してる』

「は?」


 さすがに、真面目に試合をしている選手に向かって、そんなことを言ったことはないけれど。

 そういうことを心の中でしてきた記憶は、俺にもあった。同性同士で、そんな会話をすることもあった。

 そうすることが「男として当然」だと思った。


 ――「女同士が真面目に戦闘をしていても、ストリップショーだと思われるから」

 リンのこの言葉を聞くまで、「それをされた人はどう思うか」なんて、考えたことがなかった。




「で、本当は何を話したかったんだ」

『え?』

「メルランと話した時から、様子がおかしかった。何か言われた?」


 メルランの名前が出て、俺は声が出ないほど驚いた。なんだリン。エスパーなのか!?


「あいつはろくでなしの人でなしだから、耳を貸さない方がいい」しれっとリンは言う。

 ……これリンが鋭いのか、メルランに信用がないのか、どっちだろ。

  

 

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