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はじまり、はじまり
カタ、カタ、カタ、カタ。カタ。カタ、カターン、カタ、カタ。カタ、カターン、カタ、カタ。カターン、カターン、カターン。
広い洞窟の中で、俺が鳴らす音が響く。
何度繰り返したことだろう。
こうやって通りすがる人、通りすがる人に、ひたすら音を鳴らし続けた。
だが、ほとんどの人は……って言っても、ここにたどり着く人なんてほとんどいないけど。まあいい。
ほとんどの人は、俺の存在に気づいても、無視して通り過ぎて行くだけ。
だけど、その人だけは違った。
フードを被った少女は、俺の前に立ち、俺を見下ろしている。
初めて、俺の前で足を止めた異世界人。
ベージュ色のフードの下からは、黒い髪が零れていて、青い瞳は洞窟の壁に生える水晶のようだった。
彼女は真面目な顔で俺を見つめ、そして呟いた。
「Hello……?」
耳なんてないのに、鼓膜が震えたような気がした。
いや――震えたのは、身体の全てかもしれない。
その人は、俺がひたすら送っていたメッセージを口にした。
こうして俺は、異世界に転生して初めて、誰かと話すことができた。




