決闘!!
夜になれば、決闘のためにマクシミリアン伯爵邸の庭にいた。
決闘のために勇ましい衣装に着替えているルイーズ様と、いつもの晩餐用のドレスのままで2人で睨みあっていた。
周りはシリル様を筆頭に、使用人たちが集まって見ていた。冷や冷やする者もいれば、目がテンになって見ている者もいる。
「ふん。その格好はなんです? 決闘をする前から、白旗を上げるつもり? ですが、許しませんわよ」
「仕方ありませんわ。晩餐にはドレスがセオリーですのよ」
「ま、まさか、先ほどまでのんびり晩餐をしていたと……!?」
「当然ですわ。お腹が空いたら、どうしますの?」
「何を考えているの!?」
「早く終わらせて、ゆっくりと眠ろうと思っております」
「なんですってっ……! 勝てないと思うなら、今すぐに負けを認めて出ていきなさい! この婚約破棄女!!」
「……喧嘩は買わない主義だと言いましたわ。はっきりと言えば、いつもならこんな面倒事は嫌いなのです」
はぁーー、あからさまにため息を吐いた。
「ちなみに、決闘の契約書もお持ちしましたわ。どうぞ、あなたもこちらに宣誓してください」
「わざわざ、そんなものまで準備するなんて……後悔するわよ」
「だって、あなたのことを微塵も信用してないですもの。なかった事にされては困りますわ」
「……!」
――決闘の勝者は相手の言うことを一つ聞く。
決闘の契約書には、そう記されていた。
「よろしくてよ! このルイーズ・ウェルティ。勝利の報奨を望みますわ!! 勝利の報酬は、キーラ・ナイトミュラーがリクハルド・マクシミリアン伯爵と婚約破棄をして、マクシミリアン伯爵家から出ていくことです!!」
ルイーズ様がフルールを騎士のように掲げて叫んだ。
「では、私、キーラ・ナイトミュラーは魔法の契約書に従い、ルイーズ・ウェルティの家庭教師解雇後、マクシミリアン伯爵家からの退去を望みますわ」
ルイーズ様が宣誓で叫ぶと、魔法の契約書の文字が光った。魔法の契約書だけはウソを書けない。魔法の契約書が私たちの決闘を受理したのだ。
「これで、逃げられませんわ」
「お黙り! 構えなさい!」
怒らせたルイーズ様が、フルールを持って構える。もう、私と会話する気はないのだろう。それを、見据えて手を軽く掲げた。
「武器が用意できなかったなど、言い訳は認めませんわよ!」
えいっと、叫びながらルイーズ様がかかってきた。
「別にいいですよ。私は武器を持つことは禁じられているので……」
そう言って、視線鋭く見据えてルイーズ様の足元を見た。手を軽く掲げれば、グリモワールが現れる。魔法を使えば、グリモワールがパラパラと風に煽られるようにページが開いていた。
「炎魔法、『火焔円舞』」
「……っ!!」
静かに唱えると、ルイーズ様の周りに炎が円を描いて立ち上った。私に向かって突きかかって来ようとしたルイーズ様は、つんのめりそうな足を止めて炎に囲まれていた。
「キャアァ!? 何よ! これ!!」
「私の上位炎魔法です。そこから出なければ、炎に焼かれることはありませんわ。大人しくそこで立っていることをお勧めします」
笑顔で言う。ルイーズ様の姿が炎に包まれているために、表情はよくわからないが、きっと歯ぎしりをして悔しがっているだろう。思い浮かべるだけで、笑いが零れそうになった。
魔法を使う私は、魔力が高いと言われていた。
子供の時はうまく使えず、しかも、何度も邸を壊したから、必要時以外はあまり使わないことにしていた。邸を壊すなと、何度もお父様にしかられていたし。
でも、ふしだらな令嬢と噂がたった原因のあの夜会。襲われた時に未遂で済んだのは、襲ってきた男を魔法で吹き飛ばしたからだ。
そして危ない令嬢となり、ラッキージンクスと噂があるにもかかわらず、私に縁談を申し込む人はいなくなった。
たぶん、その噂も有名だからリクハルド様も知っているだろう。私が男に襲われたと。
それでも、彼は私と婚約を結んで結婚も考えていると言った。物好きと言えばそうなのだろうけど、後がない私は少し驚いてしまった。
そして、シリル様。子供があんな目に遭うのは嫌いだ。そのためなら、魔法も使うことに抵抗はない。
「だから、私、本能に従うことにしましたの」
「何の話よ!」
「あなたには、お仕置きが必要ということですわ」
「いいから、ここから出しなさい! 卑怯者! これでは、決闘にならないわ!」
「何もおっしゃっているのです? これは、正式な決闘ですわ。私の武器は、魔法です。私がグリモワールを出したところを見たでしょう? そんなフルールではありませんもの」
そして、魔法の契約書が違反の発動をしないということは、私が魔法を使っても決闘に問題はないということ。武器の制限をしないのは、ルイーズ様の落ち度だ、武器を持っても負けるつもりはないけども。
「自分の武器を調達するのは、当然でしょう!」
「どうせ、私に勝とうとして、急いで高級で殺傷力のあるフルールを準備したのでしょう?」
はぁーーとわざとらしくため息を吐いた。
「そうでなかったら、決闘の時間を今夜にする必要はなかったですものね。ちなみに、私はシリル様とお茶会をしたかったので、今夜を希望してましてよ? あなたと違って、とっても楽しいお茶会を開催できましたわ」
ルイーズ様が見えないほど燃え盛る炎に向かって言い切った。笑顔は素晴らしい。きっとこれならシリル様も怯えることはないだろう。
「そろそろ、構えたほうがよろしくてよ? 炎に包まれているから全く見えませんけど? まぁ、どっちでもいいですわ」
「まさか……焼き殺す気!?」
「雷魔法『落雷』」
ピリッとルイーズ様の頭上から音がすれば、一瞬で一閃の雷が落ちた。
「キャアァァーー!!」
ルイーズ様の悲鳴が庭中に聞こえた。
「あら、素直にフルールを構えたのね。おかげで避雷針代わりになりました。好感度はマイナスでしたけど、雨露一滴ぐらいの好感度にはなりましたよ」
そして、バタンと倒れた音がして、私は炎の魔法を解いた。