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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第四章

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子供と子竜


「ヘイスティング侯爵領の別邸は、見つかったか?」

「邸には誰もいなかった。ほとんどが使われていないんだ」


邸の警備についていたウィルオール殿下の騎士たちがそう話していた。ウィルオール殿下が帰宅するなり、深夜から騎士たちがあちこちキーラ様を探している。


「ヘイスティング侯爵……」


ヘイスティング侯爵領は、お父様と来たことがあった。「ヘイスティング侯爵家のことは覚えていなさい」と言っていた気がする。


「きゅう」


キーラ様がいないせいか、リュズが寂しそうに鳴いた。いつもオヤツをくれるキーラ様がリュズは好きだったのだ。


「リュズ。キーラ様はヘイスティング侯爵領にいるのかな?」


リュズに聞けば、ずんぐりとした身体で首を傾げた。


「……リュズも行ってみる?」

「きゅう!」


たしか、この近くにヘイスティング侯爵家の別邸があった。お父様が、以前連れて来てくれた時に見たような気がする。


「たぶん、あそこもヘイスティング侯爵領だよね?」

「きゅ!」

「ヘイスティング侯爵家の別邸の一つだってお父様が言ってたの。お父様に言われた通り、ちゃんと覚えているんだよ」


ヘイスティング侯爵領の境目がはっきりとしないままで、リュックを背負った。だけど、窓から邸の周りを見れば、邸中に騎士たちが慌ただしく張り付いている。


「……どうやって出よう」


クリストフが、邸から出ないようにと言っていた。でも、キーラ様が心配で自分はそれどころではなかった。


「きゅ、きゅ、きゅう!」


何かを言っているリュズに振り向けば、リュズが誘うように背中を見せる。翼がパタパタと「おいで」と言っているように見えた。


「乗せてくれるの?」

「きゅう!」


リュズに乗っていけば、邸の玄関を通ることもない。リュズの背中にべったりとしがみ付くように乗れば、リュズが不安定に飛んだ。


「リュズ。すごい……これなら、すぐにキーラ様のところに行けるかも」

「きゅ!!」


そうして、リュズの乗ったまま、邸の窓から飛んで行った。



「シリル!!」


クリストフからシリルが部屋からいなくなったと聞いて、急いでシリルの部屋に行けば、窓が開いているだけで人の気配などなかった。


「いつから行方がわからないんだ!」

「はっきりとは不明です。部屋の前には警備を配置してましたが……部屋から出てきてないのです。私が部屋にシリル様の確認に来た時に判明しましたので……」


部屋を見渡せば、開いている窓から風が靡いてカーテンが揺れていた。


「ま、まさか、窓から飛び出したのではないだろうな」

「ここは三階ですよ! 子供が飛び降りるなど……」

「しかし、以前もキーラの真似をして森を突っ切って真っ直ぐキーラのところに行こうとして……」

「キーラの真似!?」


クリストフがキーラの真似だと知れば、納得したように頭を押さえた。


「あの……なんか、すみません。キーラは、直情的というか……昔からああなので……」


クリストフに向かってギラリと睨めば、彼が困ったように肩を竦ませた。


「そう言えば、リュズはどうした? シリルと一緒にいたはずだ」

「その子竜も見当たらなくて……」


リュズもいなくて、今度は自分が頭を抱えた。

最近はリュズに乗っていたり、ぶら下がっていたりしていたと聞いていた。まさかとは思うが、リュズがいるせいでこの窓から飛び出したのだ。


「シリル様はすぐに捜索いたします。ので、キーラは少し待っていただいて……」


キーラよりも、立場的にはシリルが上なのだ。国に仕える魔法師団としてクリストフの判断は間違ってない。だけど。


「いい。シリルの居場所は、すぐにわかる。キーラをこのまま放置はできない。すぐに俺は彼女を探す」


そう言いながら、シリルのお守りと共鳴している懐中時計とみた。方角は、キーラがいる可能性のあるヘイスティング侯爵の別邸があるところだった。


「……覚えていたのか……」


以前、シリルを連れて来たことのある別邸。シリルの父親の領地を見せるつもりで来たことがあった。それを、幼いシリルは覚えていたのだ。


「頭のいい子だとは思っていたが……」


年相応どころか、シリルはずいぶんと頭がいい。キーラも驚いたぐらいだった。歳に似合わない分不相応な本を読み、読み書きもしっかりとしている。


「ヘイスティング侯爵家の別邸だ。すぐにそこに行く。キーラもそこにいる可能性もある」

「キーラも?」


クリストフが言う。その彼をジロリと睨んだ。


「貴様が魔封じをかけたせいで……」


魔封じさえかけられてなければ、すぐにキーラの居場所が判明したものをと思えば、ワナワナと肩が震えた。


「街中で自分勝手に雷霆の(トールハンマー)を使ったのですから、仕置きは当然です!」


クリストフが負けじと言うが、それどころではない。


「……すぐに出る。クリストフは、魔法師団を率いて来い。ウィルオール殿下もすぐに動き出す。同時にやるんだ」

「わかりました」

「では、俺はすぐに行く」


そうして、急いでヘイスティング侯爵家の別邸へと向かった。




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