秘密の夜会
ウィルオール殿下に誘われて夜会へと来れば、そこは仮面をつけて相手が誰だかわからない秘密の夜会だった。そんな仮面をつけた夜会に数日続けて来ていた。
「夜会って、身元不明の夜会のことでしたか。毎日毎日来て大丈夫ですか?」
「これなら、俺が王太子殿下だとバレないだろう? 実際に昨夜もバレなかった」
「王太子殿下を秘密にする気がありましたか?」
「陛下は真面目で口うるさいからねぇ」
陛下は妾一人も取らない、真っ直ぐな人柄だと有名だった。その反面、ウィルオール殿下はどこか飄々としている。今も、イケメンオーラが隠せないで、女性たちから熱視線を受けていた。
「そろそろ、少し遊ぼうかなぁ」
「種をバラ撒かないでくださいね。婚約者もいるのですよ?」
「婚約は終わりだ」
「えっ……だって、先日もご一緒にされてましたよね」
「あのあと、エレインは部屋に監禁した。ルミエルと共謀している風だったし……おかげで、陛下の角が引っ込まなくてねぇ。早くエレインを開放しろとうるさいし……」
それは、侯爵令嬢を監禁したから、陛下が怒ってウィルオール殿下を謹慎にしたのでは!?
「やっぱり、私のせいじゃないですよ! 謹慎理由は!」
「きっかけは君だ。俺たちはリクハルドが出産証明書をルミエルから受け取ってくれば、それで終わりだったのだよ。それを理由に捕らえられたしねぇ」
で、その後、その他諸々尋問する予定だったのだ。それを、私が暴れてぶち壊した。
「リクハルド様が怒っている気がする」
「怒るかな? リクハルドはいつも不機嫌だから、ほっといても大丈夫だよ」
「そうなのですか?」
「そうだね」
ウィルオール殿下は、夜会の令嬢たちを品定めするように見ながら適当に返事をした。
「ウィルオール殿下は、リクハルド様のことをよく知っているんですね。私には、リクハルド様がわからなくて……」
「子供の時からずっと一緒だったからね。悪さをするのも一緒だったし、俺を諌めるのもリクハルドだった」
でも、私はそれすら知らなくて落ち込んでしまう。私はリクハルド様の事を知らないのだ。
「はぁーー、少し夜風に当たってきます」
「俺の前であからさまため息を吐かないでくれるかな。これでも、王太子なのだよ。国中の女性が憧れる存在なのだけど……君は人の話を聞いているのかな」
ウィルオール殿下の話など聞かずにバルコニーへと行けば、冷たい風が吹いて髪が揺れた。
「キーラ嬢」
「はい」
「寂しいのか?」
「……リクハルド様が最後の婚約になるかと思いましたので……」
「何度も婚約を破棄されて傷ついていたのだな」
「そうかもしれません。ジェレミーは慰謝料も払わなかったし……」
リクハルド様を思い出せば、寂しくなる気持ちがある。それをウィルオール殿下が見抜いたように言った。
「リクハルドが好きだったのだな」
「私が、ですか?」
「今までの婚約でも、思うところはあったのだろうけど、慰謝料で気持ちは晴れていたのだろう。だが、リクハルドだけは違う。そう見えるが?」
そうかも知れない。だから、ルミエル様に腹が立って暴れまくっていた。
「でも、嫌われました」
「嫌ってはないと思うが……」
そう言って、ウィルオール殿下が抱き寄せてきた。泣きそうな顔がちょうど良く隠れられた。
「キーラ嬢。リクハルドではなく俺と婚約をしないか?」
「ウィルオール殿下と?」
「ちょうど俺も婚約破棄だ。シリルも王族に名を連ねることになるし……君なら、シリルを大事にしてくれると思っている」
「シリル様は大事です。子供は可愛くて……」
でも、シリル様はどこかやっぱり特別に可愛いと思える。自分がルイーズ様から救い出したからだろうか。
「俺は結婚に純愛など求めない。だから、気を張る必要などない。王族には、身分やなんだと求められるし、ずっとそういうものだと思ってきている。だから、」
「いいですよ……」
真剣な眼差しで言うウィルオール殿下に応えた。だけど、私ははっきりと自覚している。
「でも……リクハルド様が好きなの」
「知っている」
◇
秘密の夜会に来て、やっとキーラを見つけた。それなのに、キーラがウィルオール殿下と抱き合っていた。
頭が真っ白になった。何も考えずにウィルオール殿下の腕の中にいるキーラを引き寄せれば、目尻を潤ませたキーラと目があった。彼女を背中に隠してウィルオール殿下を睨みつけた。




