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私、剣術を嗜んでおりませんの

私の部屋に到着すると、借りてきた猫のように落ち着かない様子のシリル様。そして、急いで執事が下僕(フットマン)を引き連れてお茶を持って来た。


次々に並べられるお茶やお菓子の数々に、シリル様の目を輝いている。

やっぱり、食べたかったのだと思う。


じっとシリル様を見れば、茶髪に薄い琥珀色の瞳。確かに、リクハルド様には似てない。顔立ちすらだ。


でも、リクハルド様が子供だと言って育てているのだから、気にする理由はない。


気にするべきなのは、あのクズ女の言動だ。


子供にあんな酷い暴言は許せない。いくら母親が他界していても、それをいいことに子供に向かって母親のことを不貞女と言い、穢らわしい子供などというのは言語道断だ。


ふっ……絶対に痛い目を見せてやりますわ。


「キーラ様……練習はしないのですか?」

「何の練習ですか?」

「ルイーズ様は、剣術をしていて……強いとよく自分で言ってました」

「あら、そうなのですか? でも、大丈夫ですよ。シリル様はお優しいのですね」


ずっと、ひどい目にあっていたのはシリル様なのに、私を気にしてくれるなど天使ではないだろうか。


「私は今夜の英気を養うために、たくさん休んで、食べますわ」


シリル様が可愛くて、私は笑顔で返した。部屋には、お茶のいい匂いがしてくる。


「ケヴィン。シリル様のお茶はミルクにしてください。温かいミルクがいいと思います。シリル様は少しお疲れですわ」

「いいのでしょうか?」

「いいに決まってます」


きっぱりと言い放った私に逆らえず、執事が暖かいミルクをシリル様用に入れ始めた。


横目で見ると、ちゃんとお砂糖も入れている。やはり、子供向けのミルクの作り方を知っているのだ。でも、ルイーズ様が出させないようにしていた。だから、執事は戸惑い確認してくる。


ルイーズ様の発言や教育の様子、そして、ルイーズ様を気にする執事たちの言動に、シリル様への対応が伺える。


乳母も教育係も貴族の子供にとっては特別だからだ。


「さぁ、シリル様。私と一緒にお茶をしてください。一人で食べるのが、寂しかったのです。だから、一緒にたくさん食べましょうね」

「はい」


そう言って、シリル様に焼き菓子をお皿に乗せて差し出した。温かいミルクを執事がシリル様に差し出すと、また頬を可愛らしく染めたシリル様。それをそっと飲み始めるシリル様。言葉にできないほど可愛い。


「ふふ……美味しいですわね。シリル様」

「……はい」

「シリル様、私は婚約破棄をされるまではマクシミリアン伯爵邸にいますから、これからも一緒に過ごしてくださいますか? もちろん、シリル様の時間のお邪魔はしません」

「一緒に? 何をすればいいんですか?」

「……そうですね。こうやって、一緒にお茶をしたりして過ごしましょう。美味しいお菓子もこうやって食べるのですよ」


そう言って、焼き菓子にフォークを刺して食べて見せた。私にならいシリル様も食べ始める。


「……美味しい」


シリル様が驚いたようにお菓子を一口、一口と食べ始めた。


「そうですよね。とっても美味しいですわ。ケヴィン。料理長に、お菓子が美味しかったとお伝えください」

「はい。光栄でございます」


給仕をしているケヴィンが頭を下げた。頭をあげたケヴィンは、何か言いたげだ。


「どうしましたか?」

「いえ……その……本当にルイーズ様と決闘を?」

「ええ。コテンパンにやっつけてやろうと思っております」

「だ、大丈夫ですか? ルイーズ様は、学院時代から剣術を嗜んでおりまして……」

「そう言えば、そんなことも言っていましたね。でも、恐れる理由がありませんわ」

「ぶ、武器を用意しましょうか? 得意な武器があれば……」

「私、剣術を嗜んでおりませんの。無駄ですわ」

「は?」


私を心配するケヴィンに他人事のように応えて、肘をついてお菓子を食べているシリル様を見た。


「シリル様。いろいろあると思いますが……嫌な奴は、私と一緒にやっつけましょう。虐める奴には容赦は無用ですわ」

「……ルイーズ様みたいにですか?」

「ええ、今夜の決闘を見せて差し上げますわ。夜更かしはできるかしら?」

「で、できます!」

「いいお返事ですわ。では、頑張って今夜は起きておきましょうね」

「はい!」


テーブルいっぱいの美味しいお菓子と温かいお茶とミルク。そして、呆れかえ青ざめている執事たち。そんなお茶会をシリル様と堪能した。その後は子供らしくお昼寝するシリル様と一緒に眠っていた。









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