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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第四章

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教えたくない

部屋へ戻ろうと、邸の廊下を歩いていて足が止まる。


__恥ずかしい。


自分の顔があげられないでいた。リクハルド様は、シリル様を思ってルミエル様の言いなりになっていたのに、私がやったことは自分の怒りだけだった。

しかも、ルミエル様をやっつけてスッキリしてしまった。自分の性格に呆れてしまう。


暴れるだけ暴れて、リクハルド様の言葉で我に返った。そんなリクハルド様と一緒に寝られなくて、逃げるようにシリル様のところへと行った。


リクハルド様が、私を迎えに来ないなど当たり前だ。


自己嫌悪に陥っていると、いつの間にかウィルオール殿下がやって来ていた。


「キーラ嬢。どうした?」

「ウィルオール殿下。な、なんでもありませんわ」


慌てて潤んだ目尻を拭いた。


「少し暇すぎたか?」

「そ、そうですわね」

「では、気晴らしに少し出かけないか?」

「謹慎が解けましたか?」

「解けるわけないだろう。だが、身代わりが来たから、夜会でも行かないか?」

「身代わり?」

「クリストフが来たじゃないか?」

「まさか、クリス様に頼んだのですか?」

「快諾してくれたよ」


ニコニコするウィルオール殿下だけど、絶対に快諾はしてないと思う。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。シリルの護衛もクリストフなら適任だ。安心していこう」

「確かに、クリス様なら安心です。でも、私、ドレスを持って来てないのです」

「ドレスぐらいすぐに準備しよう」


そうして、ウィルオール殿下と密かに夜会へと出発した。



__クリストフが別荘に行く前。


また、キーラがいなくなった。今度は一体どこに!?


「リクハルド様……奥様はいつお戻りに?」


それは俺が聞きたい。キーラに逃げられて探し回っているのに、彼女がどこにもいなくて、途方にくれていた。

マクシミリアン伯爵家では、ケヴィンがキーラを恋しそうに聞いてくる。


「何度も家出をされて、マクシミリアン伯爵家がお嫌なのでしょうか? 私たちがなにか至らないのでは……それとも、リクハルド様が……」

「その憐れんだ顔はやめろ!」

「失礼しました」


ジッと不審者を見るような。それでいて憐れんだ表情で俺を見るケヴィンに力いっぱい言った。


「とにかく、ウィルオール殿下もいない。陛下のところに行ってくるから、キーラが帰れば、邸から出さないようにしろ」

「どうやってですか?」

「部屋にでも閉じ込めておけばいいだろ」

「それは犯罪なのでは!?」

「許可する」

「奥様は、もう帰ってこない気がしてきました」


深く落ち込んだケヴィンを置いて陛下のところに来れば、陛下は怒っていた。


「何の用だ?」

「いえ、ウィルオール殿下の行き先をお教え願いたくて参りました」


陛下に挨拶をしてウィルオール殿下のことを尋ねれば、陛下が眉間のシワをよせて睨みつけている。


「ウィルは謹慎だ」


陛下はウィルオール殿下のことを「ウィル」と呼んでいた。


「その謹慎場所を知りたいのです」


ウィルオール殿下が謹慎になったことは聞いている。問題は、女性とともに謹慎場所へと出発したことだ。しかも、シリルを連れて。シリルと一緒なら、共にした女性はキーラで間違いない。


しかも、謹慎場所は誰にも教えてないせいで、居場所がわからないでいた。


「また、悪さをするつもりか? 悪ガキどもめ。ウィルはしばらく謹慎だ。ついでに貴様も謹慎しておけ」

「そんな人聞きの悪い。俺は、ウィルオール殿下のお供をしたと思われる婚約者の居所が知りたいだけです」

「婚約者?」

「ええ、おそらくウィルオール殿下とご一緒したのかと……」


怪訝な表情で陛下が見る。子供の時から、ウィルオール殿下と過ごしていたせいか、陛下は容赦がない。


「……教えん」

「……それはどういう意味で?」

「そのままだ。お前には教えたくない」


ツンとした陛下に苛立って、ヒョオッと自分から冷気が流れてくる。


「誰も教えてくれないのですよ」

「当たり前だ。謹慎場所は秘匿にさせている」

「なぜですか?」

「すぐにウィル目当てに貴族が行くからだ。それでは、謹慎の意味がない」

「ウィルオール殿下の謹慎には興味ありません。ですが、婚約者をさがしているのです」

「それこそなぜだ? お前が婚約者を気にするタイプか?」

「今度こそ結婚しようかと」


ますます怪訝な表情で陛下が睨んでくる。


「教えてくださいますか?」

「やはり教えたくないの」

「……っち」


思わず、舌打ちしてしまっていた。陛下はますます青筋を立てて怒ってしまう。


「絶対に教えん!」

「そこをなんとかお願いします!」


そうして、陛下と押し問答が続いていた。





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