教えたくない
部屋へ戻ろうと、邸の廊下を歩いていて足が止まる。
__恥ずかしい。
自分の顔があげられないでいた。リクハルド様は、シリル様を思ってルミエル様の言いなりになっていたのに、私がやったことは自分の怒りだけだった。
しかも、ルミエル様をやっつけてスッキリしてしまった。自分の性格に呆れてしまう。
暴れるだけ暴れて、リクハルド様の言葉で我に返った。そんなリクハルド様と一緒に寝られなくて、逃げるようにシリル様のところへと行った。
リクハルド様が、私を迎えに来ないなど当たり前だ。
自己嫌悪に陥っていると、いつの間にかウィルオール殿下がやって来ていた。
「キーラ嬢。どうした?」
「ウィルオール殿下。な、なんでもありませんわ」
慌てて潤んだ目尻を拭いた。
「少し暇すぎたか?」
「そ、そうですわね」
「では、気晴らしに少し出かけないか?」
「謹慎が解けましたか?」
「解けるわけないだろう。だが、身代わりが来たから、夜会でも行かないか?」
「身代わり?」
「クリストフが来たじゃないか?」
「まさか、クリス様に頼んだのですか?」
「快諾してくれたよ」
ニコニコするウィルオール殿下だけど、絶対に快諾はしてないと思う。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。シリルの護衛もクリストフなら適任だ。安心していこう」
「確かに、クリス様なら安心です。でも、私、ドレスを持って来てないのです」
「ドレスぐらいすぐに準備しよう」
そうして、ウィルオール殿下と密かに夜会へと出発した。
◇
__クリストフが別荘に行く前。
また、キーラがいなくなった。今度は一体どこに!?
「リクハルド様……奥様はいつお戻りに?」
それは俺が聞きたい。キーラに逃げられて探し回っているのに、彼女がどこにもいなくて、途方にくれていた。
マクシミリアン伯爵家では、ケヴィンがキーラを恋しそうに聞いてくる。
「何度も家出をされて、マクシミリアン伯爵家がお嫌なのでしょうか? 私たちがなにか至らないのでは……それとも、リクハルド様が……」
「その憐れんだ顔はやめろ!」
「失礼しました」
ジッと不審者を見るような。それでいて憐れんだ表情で俺を見るケヴィンに力いっぱい言った。
「とにかく、ウィルオール殿下もいない。陛下のところに行ってくるから、キーラが帰れば、邸から出さないようにしろ」
「どうやってですか?」
「部屋にでも閉じ込めておけばいいだろ」
「それは犯罪なのでは!?」
「許可する」
「奥様は、もう帰ってこない気がしてきました」
深く落ち込んだケヴィンを置いて陛下のところに来れば、陛下は怒っていた。
「何の用だ?」
「いえ、ウィルオール殿下の行き先をお教え願いたくて参りました」
陛下に挨拶をしてウィルオール殿下のことを尋ねれば、陛下が眉間のシワをよせて睨みつけている。
「ウィルは謹慎だ」
陛下はウィルオール殿下のことを「ウィル」と呼んでいた。
「その謹慎場所を知りたいのです」
ウィルオール殿下が謹慎になったことは聞いている。問題は、女性とともに謹慎場所へと出発したことだ。しかも、シリルを連れて。シリルと一緒なら、共にした女性はキーラで間違いない。
しかも、謹慎場所は誰にも教えてないせいで、居場所がわからないでいた。
「また、悪さをするつもりか? 悪ガキどもめ。ウィルはしばらく謹慎だ。ついでに貴様も謹慎しておけ」
「そんな人聞きの悪い。俺は、ウィルオール殿下のお供をしたと思われる婚約者の居所が知りたいだけです」
「婚約者?」
「ええ、おそらくウィルオール殿下とご一緒したのかと……」
怪訝な表情で陛下が見る。子供の時から、ウィルオール殿下と過ごしていたせいか、陛下は容赦がない。
「……教えん」
「……それはどういう意味で?」
「そのままだ。お前には教えたくない」
ツンとした陛下に苛立って、ヒョオッと自分から冷気が流れてくる。
「誰も教えてくれないのですよ」
「当たり前だ。謹慎場所は秘匿にさせている」
「なぜですか?」
「すぐにウィル目当てに貴族が行くからだ。それでは、謹慎の意味がない」
「ウィルオール殿下の謹慎には興味ありません。ですが、婚約者をさがしているのです」
「それこそなぜだ? お前が婚約者を気にするタイプか?」
「今度こそ結婚しようかと」
ますます怪訝な表情で陛下が睨んでくる。
「教えてくださいますか?」
「やはり教えたくないの」
「……っち」
思わず、舌打ちしてしまっていた。陛下はますます青筋を立てて怒ってしまう。
「絶対に教えん!」
「そこをなんとかお願いします!」
そうして、陛下と押し問答が続いていた。




