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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第四章

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魔封じ

ウィルオール殿下の別荘は、裏には森が広がり庭はこれでもかと広かった。別荘というよりは、カントリーハウスだった。


私は今日も郵便が来ないことに項垂れていると、ウィルオール殿下が話しかけてきた。


「リクハルドからの手紙でも待っているのか?」

「そ、そういうわけでは……リクハルド様から、文など来ませんわ」

「そうかな」

「そうですわ」

「それよりも、シリルが遊んでいる。俺たちはカゼボでお茶しないか?」

「シリル様を見ながら、お茶……いいですわね」

「そうだろう。子供は見ていて飽きないものだ」


この数日、シリル様はリュズと庭で子供らしく遊んでいた。一日遊んでいるのに、子供の体力は尽きなくて、すでに夕方を過ぎている今もリュズと戯れていた。それを、ウィルオール殿下とガゼボから見ていた。


「浮かない顔だね?」

「ウィルオール殿下は、お出かけしないのですか?」

「俺は謹慎中だ。別荘から出れば、すぐに陛下の耳に入る」


ウィルオール殿下が、別荘の警備を見て言う。彼らは警備だけではなく、見張りも兼ねているらしい。


「リクハルドもすぐに来るかな?」

「来ないと思いますよ」

「そうかな?」

「婚約も破棄するんじゃないですか?」

「リクハルドがそう言ったのか?」

「リクハルド様は何も言いませんけど、数日経ったのに来ないじゃないですか」

「リクハルドが来なくて淋しいのか?」

「むぅ……暇なら夜会でも行かれたらどうですか? 秘密裏に出かけるなら、私は協力しますよ」

「夜会などに行けば、俺が外出したことがバレバレだよ。だが、そうだね……」


すると、別荘に誰かがやって来た。


「誰かな?」

「どこかで見覚えが……」


ウィルオール殿下と見ていると、やって来たのはクリストフ様だった。来るなり彼はすかさずウィルオール殿下に挨拶をした。


「ウィルオール殿下。お会いできて光栄です」

「なんだ。クリストフか。元気か?」

「ええ。胃が暴れるほど元気です」


疲れ切った表情でクリストフ様が言う。どうやら、胃が痛いらしい。


「クリス様。こんなところまでどうしたんですか? ウィルオール殿下に用事ですか? 殿下は休暇中ですよ?」

「休暇ではなく、俺は謹慎中だ」


ウィルオール殿下が淡々と言うが、眼の前のクリストフ様は怒っていた。


「用事があるのはお前だ! キーラ!」

「私ですか? お酒でもご馳走してくださるのですか?」

「ご馳走して欲しいのはこちらだ」

「ええーー」


ギラリとクリストフ様が睨む。


「なんですか?」

「なんですか、ではない。勝手にマクシミリアン伯爵家を出るなど何を考えているんだ!」

「私だって、色々思うところがありまして……もしかして、リクハルド様が探してましたか?」


もしそれなら、少しは帰ろうかと思えた。


「それは知らん。不機嫌で恐ろしい形相だったが……」

「やっぱり帰るのやめようかな……」


思わず、呟いた。


「キーラ」

「はい」

「俺は、マクシミリアン伯爵の様子を伝えに来たのではない」

「じゃあ、何しに来たのですか?」

「お前に、魔封じを施すためだ」

「嫌なんですけど……!!」


魔封じなんか施されたら、魔法が使えない。自分の身をどうやって守れと!?


「拒否権はない。誰のせいで魔法師団が全軍出動したと思う!」

「私のせいじゃないですよ」

「誤魔化すな! お前のせいだ!」


クリストフ様が怒って言うと、ウィルオール殿下が一言呟く。


「ちなみに、俺が謹慎になったのもキーラ嬢のせいだね」

「それは私だけのせいじゃありません」


クリストフ様の言い分はわかっているけど、ウィルオール殿下には同意できない。


「キーラ。何のバツもなく、のうのうと過ごせると思うなよ。バカンスなどしている場合ではない」

「だから、俺は謹慎中なんだよ。文句は陛下に言ってくれ」


ウィルオール殿下が、笑顔で頬杖をついて言う。


「私だってバカンスじゃないですわ。私だって悩みがありますのよ」

「お前の悩みなど知らん。とにかく、腕を出せ」


嫌だなぁと思いながらクリストフ様を見たが、青筋を立てて怒っている彼に観念して出し渋っている腕を出した。


「はぁーー」

「ため息を吐きたいのは俺だ。師匠が生きていれば、何と思うか……」

「お仕置きされて、自力で逃げるだけですけど?」

「仕置きする師匠がいないから、お前に仕置きするのは俺の役目だ」

「そんな律儀に兄弟子の役目を果たさなくても……」


ぶつぶつと呟きながら、クリストフ様が私の腕に魔封じの魔法をかけた。私の腕には魔封じの紋様が現れていった。


「極大魔法雷霆の(トールハンマー)を使う時は、街に被害が出ないように結界も張ったんですけど?」

「お前は確信犯か。人の部屋から、備品を盗みやがって……ちなみに、お前に魔封じをかけるのは魔法師団で決められたことだ。そのおかげで、牢屋行きを免れたのだから、しばらくは大人しくしてろ。いいな」


念を込めてクリストフ様が言う。私が捕らえられないように計らってくれたのだろうと思うと、私はもう何も言えないでいた。


私が極大魔法雷霆の(トールハンマー)を使った時は、まだルミエル様が殺人事件の犯人だとは知らなかったから、私が暴れたぐらいの認識なのだろう。確かに、王都の街中で極大魔法など使えば問題だ。


「はぁ……」

「ずいぶんと大人しいな。何かあったのか?」

「少し疲れただけですわ。申し訳ありませんが、私はお部屋に戻りますね」


そう言って、大人しく去っていく私を心配そうにクリストフ様が見ていた。





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