冷たい伯爵
崩れていく部屋から転落しそうになる瞬間、リクハルド様が私を掴んだ。彼に支えられて下を見れば、瓦礫が音を立てて落ちていく。
そして、リクハルド様の腕の中にいることにハッとした。
「離せ! 変態!」
「暴れるな! 危ないだろ!!」
リクハルド様の腕から抜け出そうとしてジタバタとするが、彼が離すことはない。瓦礫も少しずつ崩れていた。
「落ちるぞ。キーラ」
「落ちても大丈夫です! 自分に強化魔法をかけてますから!!」
ここまでよじ登るために、強化魔法を自分にかけた。おかげでモーニングスターも振り回せたのだ。
「どこが大丈夫だ!」
私の行動にリクハルド様が驚愕している。困っているのかもしれない。
「心配させるな」
そう言って、リクハルド様が私を抱き寄せた。
「リ、リクハルド様ーー! た、助けてっ!!」
リクハルド様に抱き寄せられていると、ルミエル様が今にも転落しそうな状態で助けを求めている。
「まだいたか! 今すぐにとどめを刺してやるぅ!!」
しぶとい。ルミエル様に腹立たしい気持ちは続行中で、ギリギリと歯ぎしりしてしまう。ここから落としてやろうとすれば、リクハルド様が私の腕に手を置いて止めた。
「キーラ。少し待て」
「やっぱり! 脅されてでもルミエル様を助けるなんて……!」
「違う! 少し黙っててくれ」
「何を!?」
「すべてだ!」
「ぎったんばったんを見ていろと!?」
「ベッドは、木っ端微塵になってもうないだろう!! いいから黙ってろ!」
リクハルド様に怒られてしまった。
「ルミエル。さっきの続きだ」
「何の続きだ! このやろうぉ!」
ぎゅうっとリクハルド様の首を締めた。
「キーラ」
「何よ! 変態!」
「話が進まないんだよ」
「はうっ!」
眉根を吊り上げたリクハルド様が言うと、左胸がキュウッと締め付けられた。「よし」と言ったリクハルド様が胸を押さえる私を抱き寄せたままで、ルミエル様の方を向いた。
「ルミエル」
「ちゃ、ちゃんと言いますわ! だからっ」
瓦礫にぶら下がり、今にも落下しそうなルミエル様が必死の形相で言う。
「では、もう一度聞く。セアラとエヴァンスを殺したのか?」
「…っ。あ、あれは、」
(え……)
リクハルド様の発言と、ルミエル様の反応に驚いた。茫然として頭に登った血が冷えていく。
「まさか……セアラ様を殺したのですか?」
「……っ!!」
ルミエル様の表情は、その通りだった。
「……っわ、私たちは、馬車に細工しただけですわ!」
「セアラは事故でなく、殺したのだな」
「三人が事故にあえば、浮気の言い逃れができないからっ……」
ガラッと音を立てて、ルミエル様のそばの瓦礫が落ちていくと、ルミエル様が恐怖した。
「いや! 死にたくない! リクハルド様っ! 早く助けて! 出産証明書もジェレミーが隠していると話しましたわ! セアラの事故もっ、ジェレミーがっ……ちゃんと話したのですからっ」
すると、リクハルド様が今まで見たことないほどの冷たい表情でいた。一歩も動く気配さえない。
「誰がお前を助けると言った」
「そんな!! 浮気をしたのはセアラですわ! 悪いのもセアラでっ……い、いや、セアラみたいに死にたくない……っ!!」
「そのセアラが死んでいく様をシリルに見せた。あの子は、ずっとその場で見ていたのだ」
いくら赤ん坊だったとはいえ、シリル様がどんな思いで見ていたのかと思えば、涙が出た。
リクハルド様が怒りを込めて冷ややかに言うと、ルミエル様が青ざめた。邸が次々と崩れていく。そして、ルミエル様がぶら下がっているところが崩れた。
「いやっ、イヤァーーーー!!」
ルミエルが悲鳴をあげながら落下した。




