たわけた破廉恥どもめぇ!!
ルミエル様の邸を走り去って、もう一度戻って来ていた。背中には、クリストフ様のところからくすねて来た武器と封魔の結界の棒をいくつも背負っている。
そして、ルミエル様の邸の建物を中心として、邸の周りに封魔の結界の棒を突き刺すように立てた。
「連なる結界!」
魔法を唱えれば、金属音とともに封魔の結界の棒が光り輝いた。それを何度も繰り返し、ルミエル様の邸の周りに結界の準備をしていた。
「よくも、私にケンカを売ってくれたわね!」
ギリギリと歯ぎしりしながら、声音を強調させて言った。そして、次の場所で同じように封魔の結界の棒を突き立てる。
「連なる結界!」
邸の周りに『連なる結界!』と叫びながら、すべての結界の棒を間隔等で突き立て準備を整えた。
そして、もう一つ。クリストフ様のところからくすねて来た鈎縄をグルグルと回して建物に登るために引っ掛けた。
「あの、たわけた破廉恥どもめぇ!」
建物に引っ掛けた鈎縄を持ってガシガシとよじ登り、邸の結界の中心になる場所へと激情のままに登って行った。命綱もない高所であるにも関わらずに、勢いだけで登っている。
そこに、恐怖はない。
「見てなさいよ! 私を怒らせたら、どうなるか思い知らせてやる!」
四階までよじ登り、バルコニーへと到着した。そして、グリモワールが私の頭の横に現れた。
怒りのままに両手を向かい合わせに胸の前で開いて魔法を唱えると、グリモワールが紫色に光り始めた。
「連なる結界よ。顕現せよ! 稲光の結界!」
避雷針のように、大地に立てた封魔の結界の棒へと雷が落ちていった。その瞬間、等間隔で並べた封魔の結界の棒から雷が走り、棒から棒へと雷が連なっていく。結界が顕現してルミエル様の邸の周りが雷色のオーラを纏って囲まれた。
これだけ結界を張れば、結界の外には魔法の被害はない。多分。私の魔法が結界を突き破らなければ! だけど、今に私は、それどころではない。
「古に伝わりし雷帝の槌……」
ブツブツと魔法を唱えると、空に灰色の曇が集まりだした。雷光が雲の中を走る。雷の不穏な音が鳴り響き始めていた。
雲からは、溢れるように雷がルミエル様の邸の庭へといくつも落ちてくる。
魔力が極限まで高まり、カッと目を見開いた。
「極大魔法! 雷霆の槌!!」
雷が一閃を放つと、雷霆の槌がルミエル様の邸へと真っ直ぐに向かって一瞬で落ちた。落ちたと同時にルミエル様の邸が音を立てて壊れていった。
「キャアァーーーー!!」
ガラガラと壁が崩れていく。部屋がむき出しになった部屋のベッドの上には、リクハルド様がルミエル様の上にいた。
その姿を見て、持って来ていたモーニングスターの鎖を持ち、手がワナワナと震えた。
「何をやっている! このっ……変態め!!」
勢いよくモーニングスターを振り下ろすと、二人が事をいたそうとしているベッドが壊れた。
「誰が変態だ!」
「問答無用!」
振り回したモーニングスターをリクハルド様に向けて投げると、リクハルド様が颯爽と避けた。命中率のない私が振り回したモーニングスターが部屋の壁に激突すると、部屋の破壊が加速されていく。
「ちょっと落ち着け。キーラ」
「ぎったんばったんとベッドを揺らして……いいお腰の運動して、スッキリしたのかもしれませんが、落ち着くのは、リクハルド様ですわ!」
「そんな運動してない! おかしな例えで言わないでもらおうか!」
リクハルド様が声音を強調させて言う。今にも壊れそうなベッドの上でルミエル様が青ざめて叫んだ。
「何をするのよ! ここをどこだと思っているの!?」
「あなたの邸よ。わかってやりましたわ。壊すつもりできましたもの」
ルミエル様が、乱れたドレスの胸元を押さえながら叫んだ。いやらしい。清純そうな顔で、リクハルド様を誘惑するルミエル様。その姿は色っぽいのだろうけど、今の私には不愉快なだけで、据わった目つきでルミエル様に言った。
「噂通りね! 乱暴で、破壊ばかりする令嬢……っ」
「その私にケンカを売って来たのは、あなたですわ!」
力を込めてモーニングスターをの鎖を握りしめて言うと、力を込めすぎて、腕から血管が避け血が噴き出た。殺る気満々で来た。そのために、自分に強化魔法もかけたせいで、私の身体が強化魔法に追いつかないでいる。
「このっ! 破壊魔!!」
「破壊魔でけっこう! 破壊魔らしく痴女を成敗してやる!」
「誰が痴女よ! 私が言ったのは、婚約破棄よ! 誰が邸を壊せと言ったのよ!?」
「うるさい!! こんな絶倫に身体を使って落としてどうする!!」
「身体を使って何が悪いのよ!」
「そんなもの使わなくても、リクハルド様はほっといても攻めてきますわ!!」
思い出せば、廊下や部屋でと隙あらばキスを迫ってくるリクハルド様。
「何度嫌がる私に迫ってきたことか……っ」
「人を鬼畜のように言わないでもらおうか!」
グッと拳を握りしめて言うと、リクハルド様が困り顔で叫んだ。
ルミエル様は、そんなリクハルド様が信じられなくて必死で否定した。
「リクハルド様が、そんなことをするわけがないわ!」
「うるさい! リクハルド様が好きなら、私に婚約破棄を命令しないで、頑張ればいいでしょう!!」
「だから、頑張ってリクハルド様を脅したのよ!」
「何が脅しだ! 言い訳無用!!」
ルミエル様に向かってドカンとモーニングスターを振り下ろせば、ベッドが真っ二つになった。ガラガラと邸が崩れていくと、窓際のそばにあったベッドが落ちていった。
「キャアァーーーー!!」
ルミエル様が崩れた邸から、落ちそうになる。
「往生際が悪い!」
止めを刺そうとして、モーニングスターを振りかざそうとすれば、命中率のない私が振り回したモーニングスターが、瓦礫に挟まって動かないでいる。
「武器まで、反抗期!? なら、止めはもう一度魔法でっ……!」
雷か。炎か。ほとんどの魔力を込めて極大魔法を使ったせいで、魔力はほぼ残ってない。だが、無理をすれば使える。後のことは、もう知らない。モーニングスターを投げ捨てて、魔法を使おうとした。
「まだ、魔法を使う気!? 信じられないっ……これだけの魔法が使えるなんて……ジェレミーが、あなたを手に入れようとするはずだわ……これだけの魔力があれば……」
ルミエル様が驚愕して呟いていると、リクハルド様が彼女の発言に神経を張りつめた。
「ルミエル。ジェレミーがキーラを欲しがっているのは、魔力なのか?」
「そ、それは……」
リクハルド様がルミエル様を問いただそうとした瞬間、邸が耐えられなくなりルミエル様の足元と、私の足元が崩れて落ち始めた。
「キャアァ!」
ルミエル様が叫んだ。
「きゃっ」
思わず、ぐらりとした私も小さな悲鳴が出た。
「リクハルド様っ! 助けてっ……」
ルミエル様がリクハルド様に手を伸ばして助けを求めた。
「キーラ!!」
♢
__魔法師団宿舎。
「まさか、マクシミリアン伯爵の子供が……」
ウィルオール殿下に呼び出されて、王位継承権の話を聞かされ驚いた。次の仕事は気合いを入れなければと思いながら自室の扉を開けると、目の前の光景に頭が真っ白になって、持っていた書類がバサバサとすべて手から落ちた。
部屋に運び入れた封魔の結界の棒が一つもない。武器もない。所狭しと置いていた道具類が荒らされて物が無くなっていた。
すると、勢いよく部下が部屋に飛び込んできた。
「クリストフ隊長! 大変です! ハーコート子爵邸が、雷霆の槌で襲撃されました! あの、極大魔法、雷霆の槌ですよ!! 大変なことになってます!!」
頭が痛くて、額を押さえた。血の気が引く。青ざめた顔からは、冷や汗まで出ている。ピンポイントで心当たりしかなくて心臓が痛い。
「魔王の襲撃でしょうか!?」
「魔王ってなんだよ! そんなものはいない!!」
思わず、素で突っ込んだ。
「とにかく、魔法師団全軍出動です! 動ける者は、すぐにハーコート子爵邸へと出陣です!」
ふらりと倒れそうになった。部下が慌てて支える。
「隊長!? 大丈夫ですか!!」
「大丈夫だ。大丈夫なはず!」
自分に言い聞かせるように大丈夫だと言った。死者は出てないはず。そんな報告はきてない。だから、大丈夫なはず!
願いを込めるように思う。
しかし!
「そ、装備を、Sランク準備で出動だ! 雷には近づくな! 武器にもだ!」




