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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第三章

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どこに行ったかな



シリル様とリュズを連れて、王城にある魔法師団の建物にやって来れば、クリストフ様が荷物の搬入を指示していた。


「クリス様!」

「キーラ? 今日は、どうしたんだ?」


クリストフ様が、手を止めてこちらを見た。


「ええーと、近いうちに(たぶん)マクシミリアン伯爵邸に帰るので、お顔を見に来たのですけど……差し入れも持参ですわ」


そう言って、クリストフ様にマクシミリアン伯爵邸の料理人の作ったクッキーを渡した。


「マクシミリアン伯爵邸の料理人のお味は最高ですわよ」

「そうか。ありがたくいただく」


クリストフ様がクッキーを受け取ると、私の足元にしがみついているシリル様と彼の目が合った。


「こちらは?」

「リクハルド様のご子息ですわ。とっても可愛いんですの。シリル様、こちらは私の兄弟子のクリストフ様ですよ」

「あにでし?」

「私の、家族みたいなものですわ」


兄弟子という言葉を初めて聞いたシリル様が不思議そうな顔をする。だけど、家族という言葉は分かるようで、クリストフ様をジッと見た。


「こちらがマクシミリアン伯爵の……初めまして。クリストフと申します」


シリル様の目線に合わせて、クリストフ様が丁寧に挨拶する。だけど、人見知りのシリル様が睨んでいる。そこは、リクハルド様に似ないでいいのではないだろうかと思う。


「キーラ様を取る人?」


シリル様の発言にクリストフ様と私が目を見開いて驚いた。


「……ええーと、こちらも勘違いされているのかな? キーラ」

「ど、どうでしょうか」


クリストフ様が間男とリクハルド様に勘違いされた時のことを思い出して困り顔になった。


「シリル様。俺はキーラの家族も同然の兄弟子です。決して取りませんよ」


そう言うと、シリル様が安堵した。


「それよりも、シリル様。きちんと挨拶をしないといけませんよ」

「……シリルです」

「マクシミリアン、も必要ですよ」

「えっと……シリル・マクシミリアンです」

「はい。お利口にできましたね」


頭を撫でると、シリル様が私を見て照れる。すると、背中にさしている剣のキーチェーンがシャリッと小さな音を立てて揺れた。クリストフ様は、シリル様を見て固まってしまっている。


「……キーラ」

「何ですか?」

「この鷹の紋章は……?」

「一目瞭然ですわね。そういうことですわ。私からは何も言えません」


さすがクリストフ様。すぐに鷹の紋章に気付いて青ざめる。そんなクリストフ様をよそ目に、私は搬入されている魔道具に目がいっていた。一メートルほどの棒がいくつも運ばれている。


「……これって封魔の結界の魔道具ですか?」

「ああ、しばらく任務がないんだ」

「何かやらかしました?」

「お前と一緒にするな」

「ひどい。クリス様」


次から次へと魔法で実家の邸を壊していた私に困り果てたお父様が、私に魔法の師匠をつけることにした。そうして、私は人里離れた森にある魔法の師匠の家へと放り込まれた。そこには、すでに兄弟子となったクリストフ様がいた。


その森の家で、私とクリストフ様は魔法を覚えながら過ごしたのだ。


「魔法を失敗するたびに、師匠に仕置きを受けたことを忘れたのか?」

「そんなこともありましたわね」


魔法で失敗するたびに、師匠が私をロープでグルグル巻きにして樹に吊るしていた。その度に、クリストフ様が食事を持って来てくれたりしていた。


「まあ、おかげで魔法のコントロールがまともになったから良かったが……」


クリストフ様が呆れて言う。


す巻きのようにグルグル巻きにされて吊るされた樹から脱出するには、自力でロープを解かなければならない。そう言われて、本当にほどいてくれなかった師匠。魔法を繊細にコントロールしなければならないので、苦労したものだった。


「これは、新しい任務が近々あるそうで、それまではどこにも行けないんだ。言わば、しばらくは任務がないのだ。だから、その間に部下たちの魔法の訓練でもしようかと思って揃えている」


魔法の訓練時には、周りに魔法の影響が出ないために封魔の結界の中で魔法を使うことが多い。封魔の結界に使う魔道具はずいぶんと高級だけど、魔法師団の経費になるから、たくさん用意できたようだった。


「キーラ嬢?」


すると、ウィルオール殿下がやって来た。


「ウィルオール殿下。お会いできて光栄です」

「ああ、俺も会えて嬉しいよ。シリルも元気そうで良かった」


ウィルオール殿下が大事そうにシリル様の頭を撫でると、シリル様が嬉しそうに目を細める。彼には懐いているのが一目瞭然だった。


「ウィルオール殿下。お父様は?」

「リクハルド様なら、少し出ている。何か用事でもあったのか?」

「あのね、お父様におやつを持ってきました」

「ああ、差し入れか。リクハルドが喜びそうだ」


くくっとウィルオール殿下が私を見て笑う。リクハルド様から、結婚をすることを聞いているのだろうか。まるで茶化されているようで、少しだけ恥ずかしい。


「だが、リクハルドは留守だ。俺はクリストフに用事があるが……その子竜はどうした?」


シリル様の頭の横に浮かんでいるリュズを見て、ウィルオール殿下が聞く。


「拾いました」

「拾った? 竜を?」


声音を強調させて、呆れ顔でウィルオール殿下が言う。


「お父様が、ちゃんと面倒みるなら飼っていいと言いました」

「そ、そうか……良かったな」


確かに竜を、しかも子竜を拾うことなどないだろう。


「で、そのリクハルド様はどちらに?」

「さぁ、どこにいったかなぁ? 居場所は知らないのだ」


仕事で不在なのではないだろうか。シリル様には、お城に行くと言って出ていったはずなのに。

そう思っている間に、ウィルオール殿下がクリストフ様に「仕事の話があってきたのだが……少しいいか?」と話していた。


「リクハルド様は、ルミエルのところですわよ」


突然の声に驚いて顔を上げれば、エレイン様が笑顔でやって来ていた。







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