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お茶をしましょう

「キーラ様! 何事ですか!?」


シリル様を抱いたままで部屋を出て、廊下を歩いていると、廊下が騒がしくなる。バタバタと、誰かから報告を受けたらしい執事が慌ててやってきた。


「ええーと、執事のケヴィンでしたかしら?」

「は、はい。そうでございます!」

「なら、ちょうどいいですわ。私、今日のイレブンシスのお茶は自室で取ります。シリル様の分もよろしくお願いしますね」

「あ、あの……我が家には、イレブンシスの時間はなくて……」

「あら、そうなんですか?」

「はい。旦那様は仕事ですし、決まった時間にお茶を取られなくて……呼ばれれば、いつでもご用意できます。ですので、それがお茶の時間になります。アフタヌーンティーはありますが……」


この邸には、リクハルド様とシリル様、そして、あのクズったらしい女ルイーズ様しかいないのだ。他には階上の人間はいない。だから、イレブンシスもないという。


「では、シリル様のお茶の時間にします。すぐに、私の部屋にお菓子と甘いお茶をください」

「だ、大丈夫ですか!?」

「不満があるなら、聞きましょう。私は、寛大です」

「し、しかし、シリル様のお食事はルイーズ様が……」

「それが、なにか?」


冷や汗を流して執事のケヴィンが悩んでいる。今までは、ルイーズ様の言う通りにシリル様のお茶の時間なども管理していたのだろう。

教育係……シリル様の年齢を考えたら、乳母のようだと執事たちが思っていても仕方ないことだと思う。

それが貴族だ。貴族の子供は、乳母や家庭教師に一任されるのだ。食事までも。


なんだが、腹が立ってきた。

しかも、ルイーズ様は私を明らかに見下していた。何度も婚約破棄をしているからだ。


私だって好きで婚約破棄をしたわけではない。一度は婚約を結んだのだから、いい妻になろうと努力もした。好きになろうと努力もした。でも、できなかった。


ラッキージンクスの令嬢と呼ばれても、私にはラッキージンクスなど来なかった。


「キーラ様?」

「あら、ごめんなさい。考え事をしてましたわ」


シリル様がおそるおそる呼びかける。それをにこりとして返した。


「ああ、それと、ケヴィン。今夜ルイーズ様と決闘をすることにしました」

「決闘!?」

「さぁ、シリル様。私の部屋に行きましょうね」


驚き言葉もない執事を置いて歩き出した。


そして、シリル様を抱き上げたままで歩き出した。でも、ヴォルテージが上がっていたせいか、先ほどまでは重いと感じなかったのに、やはりずっと五歳の子供を抱っこしているのは、重い。


「あの……シリル様」

「……」

「申し訳ありませんが、歩いていきましょうか?」


言いにくくて、それでも、青い笑顔を浮かべたままでシリル様に言うと、シリル様は呆れている。そして、頷いて私から降りた。


そっと手を繋ぐとシリル様が無言で私を見上げた。


「せめて手は繋がせてくださいね」

「……はい」


無愛想な子供だとは思う。にこりともしない。性格も相まっているのだろうけど……あのクズ女ルイーズ様のせいと思えてならなかった。


「シリル様。お聞きしていいですか?」

「……」


無言でこくんと頷くシリル様。


「お菓子は嫌いですか?」

「……」


シリル様が、ぶんぶんと左右に首を振る。


「では、クッキーがお嫌いですか?」

「……」

「はっきりおっしゃっていいのですよ。私は何も咎めたりしません。嫌いでしたら、他のお菓子を用意すればいいですから……もしかして、昨日のクッキーがお気に召さなかったのかと……」

「……わ、わかりません。でも、ルイーズ様が……僕にはアレルギーがあると言って……食べてはダメだと……」

「アレルギー? なんのですか?」

「クッキーです……」


小麦粉アレルギーだとでも言いたいのだろうか。だけど、本当は、ルイーズ様も知っていると思う。

シリル様にはアレルギーなどないことを。そして、小麦粉アレルギーなるものが世の中にはあるということを知っているのだ。


本当にアレルギーがあるのかと疑わしい。私があげたクッキーには、チョコレートもドライフルーツも入ってないものだった。


「シリル様。パンは食べますか?」

「は、はい。食べます」

「パンの材料とクッキーの材料は同じです。ですから、クッキーも大丈夫ですよ。きっと、ルイーズ様は知識が足りないのですわ」

「ルイーズ様が?」


理由をつけてシリル様のお菓子を取り上げるようなクズ女だ。これくらい言っても大丈夫。


無知だというおバカな立場は、あの女に被ってもらおう。これは、シリル様が罪悪感を抱える必要のないことなのだから。


「ええ。もしかして、気にしてましたか?」

「……わかりません。でも……捨てられて……」


胸を押さえるシリル様。気にしていたのだ。でも、子供で上手く説明ができないでいる。


食べたかったであろうクッキー。もしかしたら、初めてだったのかもしれない。渡したときには、表情が乏しいながらも頬を染めていた。子供らしく、お菓子をもらって嬉しかったのだ。


「シリル様。今からお茶をするので、どうぞ私と一緒にお菓子も食べてくださいね」








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