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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第三章

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湖のデート 3

勢いよく力任せに背中を壁に叩きつけられるように押さえられる。


「いったいですわ!」

「うるさい! なんで無事なんだよ!!」


私を押さえつけている眼の前の男は、私を夜会で襲った男だ。


「あら、骨折は治りましたの?」

「誰のせいで骨折したと思う!! お前のせいで、魔法師団にも癒やしが依頼出来ずに、一ヶ月以上もかかったんだぞ!」

「自業自得ですわね。魔法師団に依頼ができなかったのも、自分が女を襲ったせいだとバレないようでしょう? それよりも、手を離さないとまた大変なことになりますわよ。私、躊躇はしませんわ」

「クソッ……」


焦りと怯える表情を交えて男が、私の両肩を押さえていた。


「ここで何をしている」


冷ややかな声が男の背後から響けば、男が首根っこを掴まれて後ろに引っ張られた。


「ヒッ……」


変な声を出して、男が投げ捨てられる。尻もちをついたままで見上げれば、リクハルド様が冷たい空気をまとって見下ろしていた。


「マクシミリアン伯爵……っ!?」

「これ以上キーラに触るなら殺すぞ」

「お、俺の本意ではない! だけど……っ」


男が喚く。何が何だかわからないが、リクハルド様が驚くほど怒っているのはわかる。


「……あのボートは、お前か……」


リクハルド様がそう言うと、男が顔を背けた。


「まさか……あなたがボートに穴を空けましたの!? あんなにたくさんのボートに、何をやっていますの!」

「どのボートに乗るかわからなかったんだよ!」


自然にあちこちでボートに穴が空くのはおかしいと思った。それが、まさかこの男がやったとは……


「……キーラを傷つけないと、俺が……っ」

「だから何だ。俺を怒らせる気か」


恐ろしい雰囲気で見下ろすリクハルド様の迫力に、男が怯んでいた。今にも泣きそうだ。

そして、私は自分が襲われたのに、この状況の理由がわからず一人困惑していると、突然男の背中が弓なりになり変な声を出した。


「ギャッ……!!」


男の背後から、シリル様が剣を鞘に収めたままで男を突き刺していた。


「キーラ様に近づくな!」

「この……っ」


痛そうな顔で男がシリル様を涙目で睨むと、更にリクハルド様の威圧感が増した。

男はリクハルド様には敵わない。「クソッ」と悔し紛れに男が俯いたままで呟き。立ち上がった。

その男の胸ぐらを掴んで、リクハルド様が壁に叩きつけた。


「は、離してくれっ!」

「……ジェレミーに伝えろ。今度、キーラに手を出せば、容赦しないと」

「……」


リクハルド様が手を離せば、無言で去っていく男を尻目に彼が背後に隠している私に振り向いた。


「キーラ。大丈夫か?」

「大丈夫ですけど……あの男をご存知でしたの?」

「まぁ……」


生返事をしたリクハルド様が私の手を引いた。


「怪我人はいないようだ。俺たちは、茶でも飲もう。シリルもおいで」


剣を背中に納めるシリル様が頷く。


「はい。シリル様も怖かったですよね?」

「僕は大丈夫です」

「まぁ、シリル様はお強いですね。私を守ってくださって騎士様みたいでしたわ。本当にご立派で……」


私を守ろうとしたシリル様に目尻が潤んだ。


無表情で照れるシリル様。子供らしい助け方だったけど、その気持ちは嬉しいと思えたのだ。

むしろ慌てることも恐怖することもない。あまりの感情の薄さに少し怖いがリクハルド様を見てればこれでいい気もしてくる。


「シリル様。お茶はこの湖のカフェですの。湖が見えて綺麗ですが、今日は珍しい氷の湖ですよ」


そう言って、落ちた毛布を拾い上げた。


「では、すぐに毛布を配ってくるので、少しだけお待ち下さいね」


シリル様の頭をひと撫でして、パタパタと走って毛布を配りに行った。


それを、リクハルド様とシリル様がじっと見ていた。





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