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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第三章

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湖のデート 2

ボートの底から水がゴポゴポと音をたてて入ってきて、思わず青ざめた。


「お父様。穴が空いてます。これはどうしますか?」


シリル様が不思議そうに聞く。感情が薄いせいで、リクハルド様同様まったく慌てない。


「どうしましょう。私、飛翔の魔法は習得してないのです」

「……なぜ、穴が空いているんだ?」

「知りませんよ!」


落ちつき払ったリクハルド様に力いっぱい言った。この親子は、感情が欠落していると思う。


「シリル様は、リクハルド様に似ているんじゃないですか?」

「急に何を言い出す」


落ちつき払ったリクハルド様がまじまじとボートの穴を見つめていると、別のボートから悲鳴が上がり、ハッとした。


「キャーー!」


あちこちであがる悲鳴と慌てるカップルたちを見て、すぐに助けなくてはと立ち上がった。


「すぐにお助けしなくては!! ひゃっ……っ」


ボートの上で、ぐらりとバランスが崩れると、倒れそうになった。すると、リクハルド様が座ったままで私を受け止めた。


「大丈夫か?」

「す、すみませんっ……」


彼の腕のなかが恥ずかしくて、顔を火照る。そして、また悲鳴があがる。


「す、すぐに魔法で……」


だけど、私が得意な魔法は火と雷だ。ボートを燃やすのも不味い。雷を使うと、湖全体で感電しそうで、一瞬で私が大量虐殺を起こしてしまいそうだった。


「くっ……魔力は高いのに……」

「落ち着け。キーラ」

「でも、早く助けないと……あちこちでボートが沈んでいきますわ!」

「全員助けられるから問題ない」


そう言って、リクハルド様の頭の横にあの美しいグリモワールが現れた。リクハルド様をみると、シリル様を寒さから守るように抱き寄せている。


「氷霜のフロストブリーゼ


氷のような冷たい風がリクハルド様から中心に吹き始めると、湖が瞬く間に凍っていった。

ボートに入っていた水が凍っていく。そのおかげで、水は入らなくなったけど、ボートも動かなくなった。


「行くぞ。シリル。暖かくしろ」


こくんと頷くシリル様をリクハルド様が抱き上げると、私に手を差し出した。


「キーラ」

「は、はい……」


リクハルド様の手に自分の手を添えると、彼が私を立たせてくれる。そうして、もう片手で私を支えた。


リクハルド様がすごい。慌てることなく一瞬で多くの人を救っている。それを鼻にもかけない姿を尊敬の眼差しで見上げた。


「リクハルド様。凄いですね」

「別に」


ボートから降りて、凍った湖の上をリクハルド様が歩き始めると、それを見ていた他のボートの人々も真似して歩きだした。


湖から出れば、ボート乗り場の責任者たちが慌ててやって来る。


「だ、大丈夫ですか!?」

「俺たちは大丈夫だ。すぐに暖をとれるようにしろ」

「は、はい!」


急いで責任者たちが毛布を取りに動き出した。

そして、ボート乗り場で私は火をつけた。


灯火フレイムトーチ


聖火のように炎がその場に留まる魔法。灯り代わりにも使うが、これなら焚き火代わりになるだろう。


「これなら暖かいですわ。もう寒い時期ですからね。シリル様はお寒くないですか?」

「僕は大丈夫です」


さすが寒い土地と言われているマクシミリアン伯爵領で育っただけはあるなぁ、と思いながら笑顔でくるりと振り向いた。


「皆さま。お寒い方はこちらにどうぞ」


そう言うと、ボートに乗っていたカップルたちが寄り添ってやって来た。穴あきボートに慌てたせいで女性は濡れている。


「お寒いようでしたら、私のコートをどうぞ」

「で、ですが、そんな高そうなコートを……」


恐縮するカップル。だけど、女性が震えている。だから、気にせずに濡れた女性に自分のコートを脱いで羽織らせた。


「お気にせずに。私はリクハルド様のおかげでほとんど濡れてませんから。すぐに毛布もきますので、それまでは私のコートで我慢してくださいね」

「あ、ありがとうございますっ」


震える女性を抱き寄せたカップルの男性が恐縮して私に感謝を告げる。しかし、全員分のコートはない。


「人手はあったほうがいいわよね。私も毛布を取りに行こうかしら?」


リクハルド様は、怪我人がいないかシリル様を抱っこしたままで確認に回っている。その間に毛布を取りに行こうとして、責任者が走っていった建物へと私も向かった。


責任者を見つけると、毛布生地のブランケットを集めて、運び出すように指示している。


「毛布運びの手は足りますの? お早くしないと、皆さまお寒いですわ」

「はい。すぐに! ブランケットしかありませんが……温かいお茶も準備しておりますので……っ」

「それはいいですわね。では、こちらは少しずつ運んでいきますね」


とりあえず出している毛布生地のブランケットを持ってボート乗り場に戻ろうとした。建物の角を曲がろうとした瞬間、突然腕を引っ張られた。


「……っつ!?」





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