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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第三章

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ラッキージンクスの相手は


――数年前。

セアラが死んで、シンクレア子爵邸に来ていた。

当時は騎士団に在籍しており、はっきり言えば忙しかった。なかなか、セアラと会うことはなく、久しぶりに再会したのは、静かに眠るセアラだった。


浮気をして、人知れず子供をもうけていたセアラ。そして、人知れず勝手に死んでいた。


その時に初めてルミエルに誘われた。

苛つくままにルミエルを抱いて部屋を出ていくと、赤ん坊の泣き声がしていた。


泣き声のする部屋へ入ると、赤ん坊だったシリルが力いっぱい泣いていた。


急なことで乳母もおらず、メイドに交代で見させていたが、近くの部屋に待機させているメイドも寝ているのか泣き声に気づかない。

恐る恐るシリルに近づくと、泣きじゃくるシリルがこちらを見た。


「……どうした?」

「あうっ……あぅぅ」


これをどうしたものかと思う。


子供の扱いなど知らない。泣いているときはどうしたらいいのか。困惑する。泣いているせいか、小さな手はおぼつかないままで伸ばしているように見えた。


何気なく抱っこすると、自然と背中をさすっていた。


誰かの手を借りないと何もできない赤ん坊。その子供が、誰からも見捨てられている。


密かに産まれて、人知れず育てられていた。

両親であるセアラたちが他界して、シリルはこの世でたった一人になったのだ。


――可哀想だと思った。


「……俺のところに来るか?」

「あうっ……」


そうして、誰も引き取らないシリルを自分の子供として引き取った。



「ルミエルが、ヘイスティング侯爵家に現れた」


ウィルオール殿下と密談する秘密の部屋に来ており、彼がソファに座ったままで言う。


ヘイスティング侯爵家は、ウィルオール殿下がずっと注視している。その密偵からの報告をウィルオール殿下が伝えてきた。


「ジェレミーも怪しいと思っていたが……やはり、持っているのはルミエルか? しかし、突然動き出したな」


ずっとルミエルとジェレミーは接触してなかった。それが、さっそく動き出した。


「何かあったか?」

「ルミエルに、二度と抱かないと言って、フッたぐらいですかね」

「ああ、それで焦ったのか?」


ウィルオール殿下がくくっと笑いながら言う。


「リクハルドに婚約者がいなければ、ここまで焦らなかったのにな」


少なくとも、今まではそうだった。だから、誰がシリルの出産証明書を隠したのか、わからなかった。


「……それとも、キーラ嬢のおかげか? どちらにしても、可哀想なルミエルだな」

「可哀想と思ってないでしょう。それに、俺がいない時にキーラに迫ったようですね」


ウィルオール殿下を睨んで言うと、ウィルオール殿下が困ったように肘をついた。


「迫ったというほどのことではない。だから、怒るのをやめろ。寒いんだよ」


部屋に冷気が漂うと、ウィルオール殿下が呆れて言う。


「キーラと契約魔法を結びました。手を出すと、殿下でも怒りますよ」

「だから、手を出してない。だが、本気で結婚するつもりなのか?」

「ええ。本気です」


そう言って、立ち上がり上着を取った。


「では、約束があるので、これで失礼いたします」

「ああ、報告を感謝する。それと、近いうちにシリルに護衛を付ける。マクシミリアン伯爵領への警備だ。今回、リクハルドが王都に来たのはその話だっただろう」

「適任者が見つかりましたか?」

「見つかった。キーラ嬢のおかげだ。彼女には、本当にラッキージンクスがあるのかもしれないな」


ウィルオール殿下が、感心したように言う。でも、自分には複雑な心境だった。

ラッキージンクスがあるなら、それはキーラ自身で発動して欲しいと思える。


「……キーラ自身にラッキージンクスがあれば、俺が真実の愛の相手だったのに」


思わず、誰にも聞こえない声音でぽつりと言う。


「なんだ? 何か言ったか?」

「いえ、何も。では、失礼いたします」

「ああ、気をつけてな」





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