シリルの秘密 2
驚いて目を見開いてしまっている。
「シリルの父親は、セアラと恋仲になっていたヘイスティング侯爵家の長男エヴァンスだ」
「あのヘイスティング侯爵家!?」
「そうだ。セアラの相手はヘイスティング侯爵家の長男エヴァンスだった」
「長男……? 確か若くして他界していた……」
ヘイスティング侯爵家は、あの慰謝料も払わずに私と別れたジェレミー様の家だ。長男が若くして他界したために、次男であるジェレミー様が次期侯爵を継ぐことになる予定だった。
確かに、髪色も瞳の色もジェレミー様と同じだった。夜会でもシリル様と同じだなぁと思ったのだ。間違いなく、シリル様にヘイスティング侯爵家の色が出ているのだ。
「ヘイスティング侯爵家の曾祖母が王族だった。結婚してヘイスティング侯爵家に嫁いだのだ。外に出た王族で一番近い血筋が彼女だ」
王族は直系が優先される。だから、外に嫁いだ彼女の血筋を辿れば、彼女の直系のヘイスティング侯爵家の長男に受け継がれているのだ。この国では、外に出た王族が王族と認められるのは第一子だけ。
そして、現在のヘイスティング侯爵の子供が二人いた。長男エヴァンスと次男ジェレミー。長男を儲けた時点で、王位継承権はヘイスティング侯爵から、その息子である長男エヴァンスに受け継がれていたのだ。
その王位継承権のある長男が子供(シリル様)を儲けて他界。王位継承権はヘイスティング侯爵の長男エヴァンスから、人知れずシリル様に移っていたのだ。
「まさか……それを知っていたから、シリル様を引き取らなかったのでは……」
「どうかな……ヘイスティング侯爵の死期も近いが……」
シリル様の存在がなければ、長男エヴァンスが他界したために次男であるジェレミー様が王位継承者になる。あの偉そうなジェレミーに。
「あの男ならしそう!!」
慰謝料も払わずにケチな男だった。真実の愛を求めて私と婚約をして、あっさりと感謝もせず別れた男だ。
「今すぐにとどめを刺さなければ! シリル様に何かあれば八つ裂きにしないと!」
やっぱり、夜会で再会した時に城の外壁にぶら下げて帰ってくればよかった。
力いっぱい拳を握ると、リクハルド様は淡々と話している。
「それも危惧している。だから、シリルを誰にも渡せないようにしていた」
「じゃあ、ルイーズ様に任せていたのは……」
「あれは、父上が決めたことだ。だが、ウィルオール殿下と王位継承者第二位を探し、シリルに行き着いた時には、守らねばと、大事にしていた」
だから、学校にも行かせないで邸で過ごさせていた。魔法の契約書のせいで、誰も不審に思わなかったのだ。
「だったら、すぐにお認めになればよろしいではないですか!?」
「だから、証明ができない」
「だから、どうしてです!?」
「シリルの出産証明書がないのだ」
「出産証明書がない!?」
そんな大事なものが?
出産証明書は、子供を産んだ時に書くものだ。産んだ母親と父親の名前があるはずで……。
「それとも、結婚もしないで産んだから名前も書かなかったのですか? それで、出産証明書を捨てたとか……」
「出産証明書には、必ず父親の名前が書いてあると俺たちは確信している。なにせ、密かに三人で生活をしていたぐらいだからな」
「三人で?」
「家を借りて生活をしていた。セアラの事故の報告を受けて駆けつけた家には、子供のオモチャなどシリルのもので溢れていた。とても放置していたとは思えないほどだ。ヘイスティング侯爵家の長男は、シリルもセアラも愛していたのだ。だが、出産証明書が見当たらない。俺たちはそれをずっと探しているんだ」




