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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第二章

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父子の交流


王族の紋章を模したお土産物などもあるが、王族であるウィルオール殿下がそんな土産物をシリル様に贈るわけがない。

しかも、リクハルド様はシリル様の居場所がわかっていた。正確な居場所ではないにしてもだ。それはつまり、このお守りとリクハルド様の懐中時計が共鳴したということ。私とリクハルド様が契約魔法でお互いを繋げた原理と同じで……。


「リクハルド様……これって……どうしてシリル様がこんなものを……」

「あとで、話す。今はシリルを連れて帰ろう」


シリル様はいったい何者なのだろうと思えると、リクハルド様が察したように言った。


シリル様を見れば、膝を擦りむいて血が滲んでおり、思わず叫んでしまうと、シリル様とリクハルド様が驚いた。


「キャーー! シリル様がお怪我を!」

「キーラ。少し落ち着きなさい」

「で、でも、お怪我をっ!」

「ああ、だから、すぐに帰ろう。身体中汚れているし……」

「帰りましょう! 今すぐに!」


リクハルド様がシリル様を抱っこしたままで、急いでシンクレア子爵邸へと戻ると、ルミエル様たちが邸の前で待っていた。


「リクハルド様! シリル様は!?」

「ああ、見つけた。シンクレア子爵に伝えておいてくれ」

「ああ、よかったです……心配しましたのよ」


冷たい眼でリクハルド様がルミエル様を見る。この二人の関係もわからないところがあるせいで、居心地が悪い。


「リクハルド様……血が……それに、キーラ様まで来ていたなんて……」

「キーラは婚約者だからだ。ルミエル。話があるなら後で聞く。今はシリルが先だ」

「ごめんなさい、私、リクハルド様が心配で……」


儚げな様子で、ルミエル様がリクハルド様に寄ろうとした。それを一睨みしただけでリクハルド様はルミエル様の手を取ることなく、邸へと入っていった。



「シリル。身体中が土まみれだ。風呂に入ろう」

「この子は?」

「キーラにでも渡しておけ。シリルは血も洗い流さないと……」


小さな竜を受け取ろうとして両手を差し出すと、シリル様が名残惜しそうに懐から竜を渡してきた。


「キーラ様。どこにも行かないでくださいね」

「はい。キーラは、待っていますよ。シリル様が大好きですからね。だから、シリル様はリクハルド様に綺麗に洗ってもらってください」

「じゃあ、僕と結婚してくれますか? 僕もキーラ様が大好きです」

「シリル様……すぐにしましょう! 今すぐに!!」

「はい!」


まさかのシリル様から求婚だった。あまりにも嬉しくて即答してしまう。


「ちょっと待て!」

「なんですか? せっかくの求婚を邪魔しないでください」

「人の腕のなかで、何を言い出すかと思えば……キーラは、俺と結婚をする約束を忘れたのか?」

「確かに負けましたけど……一緒に来たからいいじゃないですか」

「よくない」


リクハルド様が睨むと胸がチクンとした。


「……っつ、なに?」

「仕置だ」

「まさか……」


お互いの胸に契約魔法をかけた。リクハルド様と私を繋ぐ魔法の紋が刻まれている。そこに痛みが走った。


「シリル。キーラは、お父様と結婚するからダメ」

「でも、お父様はキーラ様に意地悪します」

「意地悪ではない」

「僕もキーラ様と結婚したい……そしたら、ずっと一緒にいられるのに……」


胸がきゅんときた。それと同時に切なくなる。シリル様は自覚がないにしても、実の両親との別れを経験しているのだ。

別れが怖いのかもしれない。


「シリル。キーラはずっとマクシミリアン伯爵家にいるから心配するな」

「そうですわ。シリル様。結婚しなくても、ずっと一緒にいられます」

「本当に?」

「本当です。だから、心配せずに湯浴みしてくださいね」


そっとシリル様の小さな手を握れば、シリル様の表情が少し照れたように緩んだ。そんなシリル様を連れて、リクハルド様は湯浴みへと連れて行った。



「お父様とお風呂入るの初めて……」

「そう言えばそうだな……ほら、よく洗え」


土のついた柔らかいシリルの顔を擦ると、お湯で頬を赤くしたシリルがじっとこちらを見た。


「足は痛いか?」

「少しじんじんする」

「一人で行方不明になるから心配したぞ」

「ごめんなさい。でも、キーラ様に会えなくなると思って……お父様が意地悪するから、守りたかったの……」

「だから、意地悪ではないと……」


思わず、ため息が出る。まったく表情が変わらないせいで、息子にまで冷たい人間とだと思われている気がしてくる。


「シリル。そんなにキーラが好きか?」

「……キーラ様。いい匂いがするの。あったかくて、優しくて……」


まるで母親を慕うようにシリルが言う。


「だから、僕が結婚すれば、ずっとキーラ様と一緒だと思って……」

「だが、結婚はダメだ」

「むぅ」


不貞腐れた顔で、シリルが両手でバシャバシャと湯面を叩いてくる。おかげでお湯を頭まで被ってしまう。


「先日からそんな顔をしていたのは、俺への対抗心か?」

「だって……」

「シリル。お父様がシリルに約束したのを忘れたのか?」

「約束?」

「キーラと婚約するときに、一番にお前に伝えただろう」

「覚えてる」

「だったら、キーラは諦めろ。それに、キーラはお前を捨てないし、どこにも行かない」

「いなくならない?」

「キーラは強いからな。お前に会うためなら何でもすると思うぞ」


ぎゅっとシリルを抱き寄せて言う。


「お父様もどこにも行かないで……」

「どこにも行かない。お前が大事なんだ……」





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