お守りは
「シリル。キーラ。大丈夫か?」
シリル様を抱き寄せたままで振り向けば、私たちを庇うリクハルド様がいた。その背後から、氷が崩れていっている。あの一瞬でこれだけの氷を造り私たちを庇ったのだ。
「リクハルド様……助けてくださったのですか?」
「当たり前だ。シリルを殺す気か」
慌てすぎてもうすぐでシリル様と永遠の別れになるところだった。リクハルド様のおかげで少しだけホッとしてシリル様を見ると、呆然とした顔で私を見上げていた。
「キーラ様?」
「シリル様。ご無事ですか!?」
シリル様と目を合わせれば、シリル様が目を潤ませた。
「お会いしたかったです。キーラ様」
そう言って、抱きついてきた。
「シリル。大丈夫か?」
「お父様……」
リクハルド様が抱き上げれば、シリル様がジッと見たかと思うと、彼に抱きついて泣きはじめた。
「ふぇっ……っ……怖かったです。お父様」
「そうだろうな」
泣いているシリル様の背中をポンポンとたたきながら、力いっぱいリクハルド様が言う。
「シリル様。申し訳ありませんわ。怪鳥に襲われて気が狂いそうでしたの……ご無事で良かったですわ」
私の魔法で怖がらせてしまい、罪悪感でいっぱいになる。
リクハルド様に抱っこされているシリル様に寄り添うように抱きついた。
「シリル様。心配しましたわ。本当にご無事で良かったですわ」
「キーラは、気が狂っていたぞ」
「ちょっとだけ、取り乱しましたわ」
「ちょっとどころではない」
リクハルド様が力いっぱい言う。
「しかし、なぜ怪鳥がシリルを襲うんだ? お守りが効いてなかったか?」
すると、シリル様のマントのなかから、ゴソゴソと何かが動いた。
「コレは……」
リクハルド様と2人でシリル様のマントを凝視すると、シリル様のマントから小さな竜が「きゅう」と鳴きながら顔を覗かせた。
「あのね……一人ぼっちで泣いていたから、抱っこしたんです。そしたら、温かくて……」
「まさか、寝ていたのか?」
シリル様が、コクンと頷く。
「よく、こんなところで寝られたな」
「すごく眠くて……」
やはり、子供には夜更かしは無理だった。
「……シリル様は、小さな竜を守ったのですね。頑張りましたわね」
そっと頭を撫でるとシリル様がリクハルド様に抱っこされたままで手を伸ばしてきた。
「キーラ様……お会いしたかったです。どこにも行かないでください」
不安気な手でシリル様が言う。思わず、リクハルド様と顔を見合せた。
「まさか、キーラが来ないから飛び出したのか?」
「お祖父様たちが……」
「シンクレア子爵たちが何か言ったのか?」
頷くシリル様が上手く言葉にできないでいると、リクハルド様の表情が険しくなる。
「私に会いたくて……それなのに、怖がらせてしまって……」
もうすぐで、シリル様ごと魔法で出した剣を突き刺すところだった。思い出せば、涙がでる。そんな私をシリル様が撫でてきた。
「キーラ様。泣かないでください。僕が守ってあげますから、どこにも行かないでください」
「まぁ、シリル様が私の騎士様ですのね。嬉しいですわ」
私と引き離されそうになったと勘違いしたシリル様は、ここまで一人で飛び出してきたのだ。王都まで、子供の足でたどり着くはずもないのに……。その気持ちに胸を打たれて、さらに目尻が潤んだ。
シリル様に抱きつく手に力が入ると、シリル様の背中の剣に付いているお守りが目に入った。
「あら、これがウィルオール殿下からのお守りですのね。魔物除けです、……か……」
お守りをはっきり見ると、驚いて身体が固まる。
「この鷹の紋章は……」
ウィルオール殿下自らシリル様に贈ったお守り。王族しか身に着けられないお守りだった。




