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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第二章

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仁義なき戦い


「クリス様が行ってしまいました。リクハルド様のせいで……」

「もう休むだけだから、必要ないだろう」

「じゃあ、リクハルド様も帰ってください」

「部屋まで、どうやって帰るつもりだ!」


リクハルド様に抱えられて、ゆらゆらと身体が揺れる。そっと瞼を閉じれば、いつの間にか最上階の部屋へと到着していた。


「だいたい、どうしてここにいるんですか? シンクレア子爵邸に行ったんじゃ……」

「キーラが、邸を出ていったと、伝達が来たから、急いで早馬で帰ってきた」

「じゃあ、シリル様は?」

「子供に早馬は無理だ」


シリル様がいない。残念だ。


「その落ち込みようは何だ?」

「シリル様がいませんからね。それに、せっかくのチャンスだったのに、ルミエル様を置いてきて良いのですか? 同じ邸に泊まれるんですよ」

「ルミエルに気持ちはないと言っただろう。確かに何度か、相手をしたが……」

「やっぱりですか! いったい何度抱いたんですか! この変態ぃ!!」


ギュウッと両手でリクハルド様の首を絞めた。


「首を絞めるな」

「リクハルド様の好感度が上がらないんですよ! これ以上好感度を下げてどうするつもりですか!?」

「どうもしない」


ちょっとどころか、まったく動じないリクハルド様に腹が立つ。彼の腕の中で腕を組んでツンとすれば、リクハルド様の顔が近づいてくる。


「きゃあ!」


__パチンッ!!


キスされると思い、とっさにリクハルド様の頬をひっぱたいた。


「……っ、なぜ、叩く? 婚約者は俺だぞ」

「だって、リクハルド様には、ルミエル様がいるじゃないですか! とにかく、下ろしてください!」

「下ろしても逃げないか?」

「逃げません! リクハルド様が帰ればいいじゃないですか!?」

「俺は、キーラを連れ戻しに来たんだよ! 行くところもないだろう! 領地に帰るつもりか!」

「安心してください。王都に邸を買いますから。もう、不動産を巡っていますので、ご安心を!」

「まったく安心できない! どんな行動力だ!」

「いいから下ろしてくださいーー!」


バタバタとリクハルド様の腕の中で暴れると、「暴れるな」とリクハルド様が困っている。


「酔っていて歩けないだろう。ベッドまで連れて行くから落ち着け」

「落ち着けない」


ゆっくりとリクハルド様がベッドに私を下ろすと、じっと顔を近づけられる。真っ直ぐな視線にどきりとする。


「リクハルド様……帰らないんですか?」

「帰るときはキーラと一緒だ。俺がここまで探しにきた意味を考えろ」


それは、私を迎えに来てくれた、ということだ。

私を心配してくれているのだろう。今もベッドから起き上がって、私のためにお水を入れている。


「……帰る気ないのか?」

「だって……同じ邸でぎったんばったんされると、さすがに……」

「だから、違うと……!」


同じ屋根の下で同衾されると、さすがに私だって傷つく。そう思うと、リクハルド様から、冷ややかな空気が流れてくる。


「ちなみに、キーラを押し倒したらどうなる?」


突然の発言に身体が固まり、瞬きも忘れている。

しかし!!


「全力で抹殺します!!」


一瞬で怒り力を込めて言うと、リクハルド様の持っていたグラスの水が一瞬で蒸発した。


「おい。水が蒸発したぞ」

「なんですか。殺るなら受けて立ちますよ」


ベッドから起き上がり、ふらりとした足に力を入れて言う。拳を握れば、私の頭の横にグリモワールが現れた。


「言っておくが、俺は攻められるのは好きではない」


リクハルド様から、冷ややかな空気が流れてくると、彼の頭の横に美しいクリスタルのような水色のグリモワールが現れた。


「誰が攻めてますか!」


ルミエル様に誘われて、ほいほい乗ったクセに!


「炎のフレイムランス!!」

氷壁アイスウォール


リクハルド様の股間目掛けて、炎の槍を放つと、リクハルド様の目の前に一瞬で氷の壁ができた。そのせいで、炎が消える。


「炎が……」

「俺の氷のほうが上のようだな」


冷ややかに勝ち誇ったリクハルド様にイラッときた。


「雷のヴォルティックアロー!」


雷の矢を打つと氷が割れる。部屋中に雷が落ちて衝撃音が響き渡る。リクハルド様は、颯爽と避けて、間合いを詰めてくる。


「キーラ。俺が勝てば一緒に帰る約束をしろ」

「いいですわよ! まだまだ、殺れますから!」

「約束だぞ」


目の前にやってきたリクハルド様にそう言って、「フレイム」と叫んだ。目の前に炎が現れると、リクハルド様が炎に青い炎を纏った手を突っ込んだ。


「これで終わりですわ!」


そのまま爆発させてやる!


そう思った瞬間、


「絶対零度」


リクハルド様が一言詠唱すると、私の炎が青い炎に飲まれて凍った。


「俺の勝ちだ」


そして、凍った炎が割れて飛び散った。



「キャア!」


割れた炎の氷から、私を守るようにリクハルド様が、抱き寄せて庇った。








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