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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第二章

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お茶会マイナス一


サロンでルミエルとシリルの三人でお茶を始めていた。お茶をしていると、シリルが不機嫌そうにケーキを前にして、フォークを咥えたままで眉間のシワをよせてムッとしている。


「シリル。どうした?」

「キーラ様が……」

「お茶にいないから怒っているのか?」

「怒る?」

「怒ってないのか?」


怒っている感情がわからないのではないだろうかと、不安になる。相変わらず、感情表現が苦手な子供だった。


「せっかくのお茶の時間ですのに、どうされたのでしょうか? いつもご一緒ではないのですか?」

「そういうわけではないが……」


ケーキを買ってきたから、一緒に食べるものかと思えば、キーラはお茶に来なかった。シリルが不機嫌な理由はコレだと思うが……。


「……キーラ様。ケーキが三つしかないから、お部屋に行ってしまいました」

「ケーキが三つしかない?」


ルミエルが来たことを知らなかったキーラは、自分の分をルミエルに出したという。


「まぁ、知らずに食べてしまいましたわ。言ってくだされば、遠慮しましたのに……今度は外でお茶をしましょうか? リクハルド様」

「そうだな……ほら、シリルは気にせずに食べなさい。せっかくキーラがお前のために買ってきたのだ」

「僕の分はキーラ様にあげます」

「キーラは喜ばないと思うぞ」


泣いて喜びそうな気もするが、それはシリルの気持ちにだろう。キーラは、ケーキを譲ってほしいなど、思わないと思う。


「シリルの好きなチョコレートのケーキだ。キーラはお前のために選んだのだろう」

「僕のために?」

「そうだ」

「じゃあ、食べます」


そう言って、やっとケーキにフォークを指して食べ始めたシリルを見て、ホッとした。


「シリル様は、キーラ様に気を遣っているんですね……」

「気を遣っているというか、キーラに懐いている」

「……そうですか。でも、あの人見知りだったシリル様がすぐにキーラ様に懐くのでしたら、大丈夫かしら? 今日はそのことをお伝えしに来たのですけど……」

「何の話だ?」

「シンクレア子爵です。セアラのお父様がシリル様に会いたがっています」

「子爵が?」


ずっと、セアラの妊娠、出産を信じられず、シリルを受け入れなかったセアラの父親。それなのに、ルミエルがセアラからの手紙を見つけたことで、セアラの実家であるシンクレア子爵家へと伝えに行った。そして、シリルに会いたいと言い出したと言う。


やはり、キーラが魔法の契約書を無効にしたせいだろうか。今まで、会いたいということもなかったシンクレア子爵。

何の進展もなかったのに、動き出している気がする。


ハッとすれば、ケーキを食べながらシリルがこちらを見ていた。


「ああ、シリル。シンクレア子爵はお前の祖父だ」

「そふ?」

「お祖父様だ。シリルに会いたがっているらしい」

「僕に? どうしてですか?」

「……母親であるセアラの父親だからだろう」

「お母様のお父様……」


会ってみたいと思ったのか、少しだけシリルの表情が緩んだ。


「会いに行くか?」


そう聞くと、シリルがこくんと頷いた。


「では、あとでキーラにも伝えよう。寝る前にでも話すか……」

「はい」


シリルの頭を撫でれば、柔らかな雰囲気になる。ルミエルがそれを見て密かに歯を食いしばっていた。






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