お茶会マイナス一
サロンでルミエルとシリルの三人でお茶を始めていた。お茶をしていると、シリルが不機嫌そうにケーキを前にして、フォークを咥えたままで眉間のシワをよせてムッとしている。
「シリル。どうした?」
「キーラ様が……」
「お茶にいないから怒っているのか?」
「怒る?」
「怒ってないのか?」
怒っている感情がわからないのではないだろうかと、不安になる。相変わらず、感情表現が苦手な子供だった。
「せっかくのお茶の時間ですのに、どうされたのでしょうか? いつもご一緒ではないのですか?」
「そういうわけではないが……」
ケーキを買ってきたから、一緒に食べるものかと思えば、キーラはお茶に来なかった。シリルが不機嫌な理由はコレだと思うが……。
「……キーラ様。ケーキが三つしかないから、お部屋に行ってしまいました」
「ケーキが三つしかない?」
ルミエルが来たことを知らなかったキーラは、自分の分をルミエルに出したという。
「まぁ、知らずに食べてしまいましたわ。言ってくだされば、遠慮しましたのに……今度は外でお茶をしましょうか? リクハルド様」
「そうだな……ほら、シリルは気にせずに食べなさい。せっかくキーラがお前のために買ってきたのだ」
「僕の分はキーラ様にあげます」
「キーラは喜ばないと思うぞ」
泣いて喜びそうな気もするが、それはシリルの気持ちにだろう。キーラは、ケーキを譲ってほしいなど、思わないと思う。
「シリルの好きなチョコレートのケーキだ。キーラはお前のために選んだのだろう」
「僕のために?」
「そうだ」
「じゃあ、食べます」
そう言って、やっとケーキにフォークを指して食べ始めたシリルを見て、ホッとした。
「シリル様は、キーラ様に気を遣っているんですね……」
「気を遣っているというか、キーラに懐いている」
「……そうですか。でも、あの人見知りだったシリル様がすぐにキーラ様に懐くのでしたら、大丈夫かしら? 今日はそのことをお伝えしに来たのですけど……」
「何の話だ?」
「シンクレア子爵です。セアラのお父様がシリル様に会いたがっています」
「子爵が?」
ずっと、セアラの妊娠、出産を信じられず、シリルを受け入れなかったセアラの父親。それなのに、ルミエルがセアラからの手紙を見つけたことで、セアラの実家であるシンクレア子爵家へと伝えに行った。そして、シリルに会いたいと言い出したと言う。
やはり、キーラが魔法の契約書を無効にしたせいだろうか。今まで、会いたいということもなかったシンクレア子爵。
何の進展もなかったのに、動き出している気がする。
ハッとすれば、ケーキを食べながらシリルがこちらを見ていた。
「ああ、シリル。シンクレア子爵はお前の祖父だ」
「そふ?」
「お祖父様だ。シリルに会いたがっているらしい」
「僕に? どうしてですか?」
「……母親であるセアラの父親だからだろう」
「お母様のお父様……」
会ってみたいと思ったのか、少しだけシリルの表情が緩んだ。
「会いに行くか?」
そう聞くと、シリルがこくんと頷いた。
「では、あとでキーラにも伝えよう。寝る前にでも話すか……」
「はい」
シリルの頭を撫でれば、柔らかな雰囲気になる。ルミエルがそれを見て密かに歯を食いしばっていた。




