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10番目の婚約者である氷の伯爵様だけが婚約破棄をしてくれない!〜子供が可愛すぎて伯爵様の溺愛に気づきません〜  作者: 屋月 トム伽
第二章

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胸の痛みと三つのケーキ


買い物をして邸へと帰れば、リクハルド様は書斎にいると言う。さっそくシリル様にお土産のケーキを持って書斎へと行った。


「シリル様。ただいまキーラが帰りました!」


元気に書斎の扉を開けると、リクハルド様とルミエル様が抱き合っている。思わず、開けた扉のところで足が止まってしまった。


「キーラ?」


リクハルド様は慌てる様子もない。


「あら、お邪魔でしたか」

「何の邪魔だ」


私を見て、リクハルド様がそっとルミエル様の肩に手を置いて身体を離すと、ルミエル様は照れた顔を抑えながらちらりと私を見た。


「シリル様にケーキを買ってきたので、お持ちしたのですけど……」

「では、お茶の時間にしよう」

「はい。私はシリル様をお呼びしますね」


書斎に入ることなく、笑顔でそっと扉を閉めた。

……リクハルド様は、シリル様と一緒にいるかと思って書斎へ行った。だけど、予想外にもリクハルド様と一緒にいたのは、ルミエル様だった。


ちょっと失敗したかしら?


胸がチクンとした。見ないほうが良いものを見た気分でシリル様を迎えに行けば、部屋で剣を振り回していた。

なんて可愛いのだろうか。これぞ無邪気な子供の姿だ。


「シリル様」

「キーラ様……!」


私に気づくと、シリル様が照れた表情で駆け寄ってくる。足元に抱き着いてくるシリル様の目線に合わせて抱き寄せた。


「今、帰りました。シリル様はとっても強くなりそうですね」

「そしたら、キーラ様を守ってあげます」

「まぁ、シリル様が守ってくださるのですか?」


シリル様がこくんと頷いた。


「嬉しいですわ。シリル様が私の騎士様ですね」

「絶対に強くなります。だから……」

「はい。じゃあ、立派な騎士様になるためにおやつにしましょう。美味しそうなケーキを買ってきました」

「ケーキ……」

「チョコレートのケーキですよ。使用人たちにも買ってきたので、階下へ行ってすぐにお茶も頼んで来ますね」

「僕も行きます!」

「では、ご一緒下さい」


名残惜しそうに剣を置いたシリル様に手を出せば、そっと手を繋いでくれた。


階下の使用人たちの部屋へと行き、そのまま御者の部屋へと行った。


「お加減はいかがかしら?」

「奥様っ!」


部屋で休んでいた御者の見舞いに行くと、慌てて御者がベッドから降りようとしていた。


「そのままで大丈夫ですよ。先日のお詫びにお菓子を買って来たんです」

「じ、自分にですか!?」

「ええ、気に入るといいのですけど……」

「いいのでしょうか?」

「何か問題でも? 使用人たちにも、みんなで食べられるお菓子を買ってきたので、気を遣う必要はないですよ?」

「しかし、すぐに魔法で治していただきましたので……その、特に不自由はなかったというか……」

「では、クリス様に感謝ですね。じゃあ、クリス様にも、お礼をしますね。お食事でも誘うかしら?」


そう言えば、王都に来てから世話になったのに、クリストフ様に何もお礼をしてないと思っていると、ドレスにしがみついているシリル様の手に力が入っていた。


「シリル様からも、お菓子をお勧めしてください」

「おすすめ?」

「はい。どうぞ、と言ってくださればいいのですよ」

「どうぞ?」

「お上手ですよ」


シリル様が御者に声をかけたことに、御者が驚いた。今まで、まともに話すことすらなかったのだろう。階下に来ることもなかった。


「では、ゆっくりと休んでくださいね」

「ありがとうございます……奥様」


シリル様と手を繋いで部屋を去る二人の姿を見て、本当の親子みたいだと御者が思った。


お茶の準備を始めているケヴィンに声をかければ、お土産のお礼を言われる。


「ケヴィン。私のお茶は部屋に持ってきてくれる?」

「リクハルド様とご一緒しないのですか?」

「それが、ルミエル様が来ることを知らなくて、三人分しか買ってこなかったの……ルミエル様だけ違うのを出すわけにはいかないし、私がご遠慮するわ」

「しかし……」


ケヴィンが、お茶に私だけが出ないことを怪訝な表情で言う。足元にいるシリル様も眉間のシワをよせて私を見上げている。視線が痛い。


「キーラ様は、一緒にお茶をしないのですか?」


俯くシリル様の目線に合わせて腰を下ろした。


「……私はお部屋でお茶をしますね。少しやることもありますし……私のことは気にせずに、シリル様はお茶を堪能してくださいね」


シリル様の頭をそっと撫でた。そうして、リクハルド様とルミエル様のいるところへと連れて行くと、二人はサロンでお茶を待っていた。







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